本課題申請時における計画通りに、本年度は、傾斜角度の実測による取り込みを行った。アモルファス氷層にて作製した細胞・組織の切片には、クライオ電子線トモグラフィーで使用する(多くの場金コロイド粒子)、あるいは、光学顕微鏡との相関をとるために使用するマーカーを適切な散布度で対象領域に固定するのは困難なことが多い。特に目的とする領域を分子分解能観察するためには高倍率の撮影が必須であり、それとともにマーカーの撮影領域存在率は、大きく減少する。このため、マーカーにできるだけ依存せず、撮影時の実測データを用いてその後の解析の確度を改善する試みの一つとして、傾斜角度の実測とそのトモグラフィー解析への適用を行い、有用性の評価を行った。結論として、電子顕微鏡に付属の制御パネルに表示されるゴニオメーターの傾斜角度を使用するよりも、実測値を使用した方が非常に精度のよいトモグラムが得られた。この評価にはx-y方向の計算に相関法を用いたアライメント画像を用いているが、マーカー法によるアライメント画像を用いた場合にも、傾斜角度をマーカー法による算出値及び実測値を用いると、両者で同等の精度をもったトモグラムが得られた。取り分け低角では、マーカー法が誤差を生じやすいことが知られており、本実験でも実際に同様の現象が起きた。米国コロラド大学が配布しているトモグラフィー解析ソフトIMODでは、解析プログラムにてこの低角度の誤差を修正する機能を実装しているが、そうでない場合-特に解析に使用するマーカー数の少ない場合-には、実測値の使用が望まれる。
|