本年度は、単一および少数不純物原子を含む極微細シリコンナノロッド型チャネルトランジスタ、およびナノスタブ型チャネルトランジスタに対して、(1)ボーア半径と同程度のシリコンナノチャネル構造内に埋め込まれたドナー原子・アクセプター原子の電子・正孔空間分布とイオン化エネルギー、(2)単一・少数ドナー原子とアクセプター原子を同時にドープ(複合ドーピング)した場合の、電子状態と構造安定性、およびドーパントペアリングの可能性、について検討を行った。シリコンナノ構造における実効的LUMO軌道(伝導に寄与する最低エネルギー準位)の同定に際して、射影状態密度(PDOS)の空間分布、および3次元波動関数可視化の2種類の方法を用いることで、Pドナー原子の深い束縛エネルギーの定量的評価に初めて成功した。またナノチャネル構造内のPドナー原子の位置と束縛エネルギーの相関を、量子閉じ込め効果と誘電閉じ込め効果の観点から明らかにした。一方、ナノロッドチャネル中にP原子、B原子が各々1個ある場合に対しては、夫々のイオン化エネルギーがドーパント原子間距離に強く依存し、また特に両者が最近接位置にある場合には、個別のドーパント原子としての電子状態と大きく異なる状態となることがわかった。さらに、これらの第一原理計算による電子状態解析を、非平衡グリーン関数電子輸送シミュレーションと融合させ、単一・少数不純物原子をドープしたシリコンナノロッド・ナノスタブトランジスタの電子輸送特性と個別ドーパント配置との相関について解析を行った結果、実験的に得られている少数ドーパントトランジスタ動作温度のチャネル形状依存性データと整合性のあるシミュレーション結果を得た。
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