研究課題
本研究の目的は、人工多能性幹(iPS)細胞における潜在的な腫瘍形成能に関する分子機構を明らかにすると共に、腫瘍化マーカー因子に関する知見を得ることである。昨年度、いくつかの体細胞において細胞増殖および(あるいは)腫瘍形成に関わる因子として知られるNanog、Klf4、およびLin28(以下、鍵転写因子と称する)を手がかりとし、鍵転写因子群と相互作用する因子を、我が国独自の遺伝子ネットワーク解析技術であるin vitro virus(IVV)法を用いて網羅的にスクリーニングし、Nanogの相互作用因子としてNap1を、Klf4の相互作用因子としてEgfrRNAを、Lin28の相互作用因子としてTnp2を、それぞれ同定した。本年度は、これらの相互作用の検証を試みた。Nap1(Nucleosome assembly protein 1-like 1)はクロマチンリモデリング因子であり、ヒストンをアセチル化することで染色体を開いた状態にする。p300/Creb/Tax複合体と相互作用して、転写制御ターゲットの遺伝子を開いた状態にし、転写を促進する。Nap1はN末端側にCaspaseによる切断サイト、中央部にp300結合領域、C末端側に転写因子結合領域をもつ。NanogはNap1の転写因子結合領域に結合する。それ故、全長のNap1はNanogと結合するが、C末端の転写結合領域が欠損したNap1はNanogと結合できないことが結合検証実験でわかった。また、Nap1は細胞内でNanogと相互作用することが共免疫沈降実験によってわかった。EGFRは細胞増殖やアポトーシス抑制に関わる重要なタンパク質である。RIP(RNA immunoprecipitation)アッセイを行った結果、細胞内において、Klf4がEgfrRNAと結合することがわかった。Tnp2は精子の形成過程においてヒストンと置き換わることで凝集した染色体構造を形成する機能をもつ因子である。in vitroでの結合検証を行ったところ、Tnp2はLin28と結合することがわかった。しかし、Tnp2は細胞内ではMsi1共存下でのみ、Lin28と結合することが共免疫沈降実験によってわかった。
2: おおむね順調に進展している
In vitro virus(IVV)法によるスクリーニングで、腫瘍形成に関わる因子として知られるNanog、Klf4、およびLin28に結合する因子として、生物学的に意味のある興味深いタンパク質やRNAがスクリーニングされたので、その後の機能解析の方針が立て易くなった。
iPS細胞などの多能性幹細胞の特徴である分化多能性および未分化能に関わる主要転写制御因子群のうち、他の細胞においては細胞増殖および腫瘍形成に関わる因子でもあるNanog、Klf4、Lin28に結合する因子がin vitro virus(IVV)法によりNap1、EgfrRNA、Tnp2と同定されたので、今後は鍵転写因子と相互作用因子の複合体が司る標的遺伝子の発現制御機構の実態を解明していく。さらに、以上の研究で得られた相互作用データより、腫瘍マーカーとなりうる因子に関する知見も得ていく予定である。
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PLoS ONE
巻: (掲載確定)
巻: 7 ページ: e30084
DOI:10.1371/journal.pone.0030084
Drug Delivery System
巻: 26 ページ: 571-583
http://square.umin.ac.jp/