イノシトールを利用できなくなった変異株PS8について、イノシトールを唯一の炭素源とする培地での経代培養を繰り返し、サプレッサー変異株を得た。そのうち独立した10株についてゲノム配列を解析した結果、9株については全てCrhホモログの翻訳低下がiol遺伝子群の転写復活に関わることが示唆された。残る1株については別の変異が関与していると示唆されるが、その同定に至ることはできなかった。 耐熱性イノシトール脱水素酵素をコードすることが判明したgk1897、gk1898、gk1899それぞれのin-frame欠損株を作製した。この逆遺伝学解析に必要なGKの遺伝子操作技術の開発を完了し論文を2報発表した。gk1897はシロ-イノシトール代謝に、gk1899はミオ-イノシトールおよびD-キロ-イノシトール代謝にそれぞれ必須であると考えられた。それぞれ性質の異なるイノシトール脱水素酵素の3遺伝子が同時に発現することによって、イノシトール異性体相互変換が細胞内で生じることをメタボローム解析によって見出し、特にシロ-イノシトールの蓄積が低温耐性の獲得に関与する可能性が示唆された。さらに、gk1899はMI代謝以外の未知なる生理機能に関わっており、グルコースを炭素源とする増殖に寄与し、かつ低温での生育を抑制する可能性も示唆された。 変異原処理によるiol変異株とそのサプレッサー変異株の解析より示唆されたiol遺伝子群の復活に影響する遺伝子は枯草菌Crhに相当するタンパク質をコードすることが判明し、PS8におけるiol発現不全はカタボライト抑制と関連する可能性があり、上記の逆遺伝学解析ツールを利用して当該遺伝子の特異的欠失および相補の検討を開始した。
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