研究課題
翻訳終結を意味する遺伝暗号、すなわち終止コドン認識により翻訳終結を引き起こし、かつ、その多義性を引き出す因子はtRNAの形と機能を模倣する性質を獲得したタンパク質であるペプチド鎖解離因子である。当研究課題は、終止コドンの多義性発現を、解読因子タンパク質の分子スイッチ機構の詳細を明らかにすることで解明することをめざしている。本年度は、これまで類似分子の立体構造を基にして、単体構造から推測した真核型ペプチド鎖解離因子eRFl-eRF3の古細菌オーソログaRF1-aEF1αの新規立体構造情報をもとに(東大・理・濡木研究室との共同研究)新たな機能構造の探索と実証実験をすすめた。【1】新規な翻訳終結複合体の立体構造情報に基づき、GTPase活性化結合部位の機能検証を進め、複合体の機能モデルの精密化を行った。複合体形成に際して、これまで知られている相互作用部位の他に、結合に伴いGタンパク質内部でのドメイン間相互作用に影響を与えるアミノ酸残基部位の重要性が実験的にも示された。【2】古細菌でaEF1αに集約されるGドメインの機能が、どのように翻訳終結(eRF3)とmRNA品質管理(HBS1)に共有されているのかを多角的に検証を進めた。我々が見いだした新規tRNA擬態複合体HBS1-Pelotaの機能解析を行うために、HBS1-Pelotaが関わるmRNA品質管理機構において、Dual Luciferase系を用いた高精度で定量的な検出系の構築を行った。このアッセイ系により、これまでは単独では検出が困難であった、loss-of-functionが予想される変異型HBS1-Pelotaの微細な機能変化を検出することが可能になった。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者の異動に伴う研究室全体の引っ越しがあり3ヶ月程度の研究中断を余儀なくされたが、変異体の活性測定を行うための、アッセイ系の構築と評価が捗ったため。
これまでの研究成果により、翻訳終結と、翻訳伸長およびmRNA品質管理機構との、リボソーム機能モードの対応が分子擬態によって行われている事実が鮮明になった。今後、解離因子のスイッチ制御機構を、より普遍的な遺伝暗号解読機構を意識しつつ検証する意義が高まったと考える。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件)
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doi;10.1093/jb/mvr010
Wiley Interdiscip Rev (WIREs) RNA
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