研究概要 |
メナキノンは、微生物にとって電子伝達系成分として生育に必須である。筆者は、ピロリ菌などの病原微生物や、放線菌などでは、メナキノンが今まで知られていた経路とは全く異なるフタロシン(FL)経路で生合成されることを以前見出した。新規経路の4つの遺伝子は、多くの微生物では染色体上に点在しているが、ゲノム解析が終了しているAcidothermus cellulolyticusでは、2か所でクラスターを成していると推定された。その一方には、アデノシンデアミナーゼと推定される遺伝子(ADase, Acel_0264)が含まれることから、アミノデオキシフタロシン(AFL,フタロシンが持つイノシン部位の代わりにアデノシン部位を持つ化合物)が中間体である可能性が考えられたため、その検証を行った。化学合成したAFLとA.cellulolyticus由来の組換えADaseを反応させた結果FLが生成した。また本株のMqnB(FLハイドロラーゼ)はAFLとは反応せずFLのみを基質としデヒポキサチニルフタロシン(DHFL)が生成した。従って本株では、AFL→FL→DHFLと生合成されると推定された。他方ピロリ菌のMqnBは、他の微生物のMqnBとの相同性が低くFLを基質としなかった。そこでAFLを基質に用いた結果、AFLからのみDHFLが生成したことから、DHFLはAFLから直接生成することが判明した。以上、FL経路の初発反応には多様性があることを示した。 また天然物からの抗ピロリ菌リード化合物の探索も行った。最初に、2種類のBacillus属細菌を用いた系で一次スクリーニングを行った。同じBacillus属に属しながら、Bacillus haloduransがメナキノン生合成の際、新規経路を使うのに対し、Bacillus subtillsは既知経路を使う。そこで、前者に対してのみ抗菌作用を示す化合物を放線菌・カビの培養液中に探索した。その結果、放線菌が生産する分岐鎖脂肪酸がFL経路を特異的に阻害することが解った。
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