本年度は難治性疾患のうち「パーキンソン病」と「がん」に焦点を絞り,申請者らが開発した小分子化合物を用いて,その標的タンパク質の同定および作用機構解析を明らかにすることを目的とした. 1)パーキンソン症:パーキンソン病(PD)とは,中脳黒質のドーパミン産生細胞中に凝集タンパク質が蓄積することで神経細胞死が誘導される疾患である.我々はPD治療薬のリード化合物としてSO286を見出した.SO286はオートファジーを誘導することで細胞内に蓄積した凝集タンパク質を分解することが示唆されたが,その詳細な作用機序は不明であった.そこで本研究ではSO286の標的タンパク質の同定を目的とした.PC12D 細胞にNGF を48 時間処理して神経様細胞様に分化させたあとMPP+ を添加し回収することで,細胞抽出液を得た.この細胞抽出液にSO286 ビオチン標識体を添加し, pull down assay およびSDS-PAGE さらにTOF/MS解析により計12 種類のSO286結合タンパク質候補を同定した. 2)がん転移:細胞遊走はがん転移に必須な段階である.これまでに我々はヒト扁平上皮がんA431細胞のEGF刺激依存的細胞遊走において,EGF刺激12時間後に細胞遊走に必須なRac1の活性化が誘導されること見出してきた.このRac1の活性化にはEGF刺激によるTiam1の発現誘導が必要であることを示した.さらにCysLT1の選択的阻害剤であるMK-571及びMontelukastおよびCysLT1のノックダウン実験によって,A431細胞の遊走過程において,EGF刺激による5-リポキシゲナーゼの活性化を介したCysLT1シグナルがTiam1の発現を誘導し,その結果Rac1の活性化を制御していることが示唆された.
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