膜タンパク質は生命維持に必須であり、タンパク質を正しい構造で膜に挿入する機構は、すべての生物がもつ基本的なしくみである。一般に膜挿入にはタンパク質性のトランスロコンを必要とするが、我々は大腸菌の膜挿入において、非タンパク質性の新規膜挿入因子MPIase(Membrane Protein Integrase)を得た。その構造を、主に部分加水分解物のデータから糖脂質であると推定した。部分加水分解から得られた糖鎖は、1H-NMRおよび合成標品とのGC-MSの比較により、「N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)」「N-アセチルマンノサミンウロン酸(ManNAcA)」「4-N-アセトアミノフコース(Fuc4NAc)」の3糖の繰返し構造であると推定した。糖の繋がり方を決めるためにメチル化分析や二次元NMR解析を行った。さらに標品となる部分構造を合成してNMRで比較して結合位置とアノマー位の立体を決定した。3糖が直鎖状に結合し、そのユニットが14回程度繰り返す構造であった。一方、脂質部は、メタノリシス生成物のGC-MSからジアシルグリセロールであることがわかった。脂肪酸については、大腸菌のロットにより異なる分布が見られた。さらに31P-NMRの結果から、糖鎖とジアシルグリセロール部はピロリン酸ジエステルを介して結合していることが明らかになった。同じ3糖の繰返し構造を持つ化合物としては、ECA(Enterobacterial Common Antigen)が知られているが、ECAはリン酸エステルである点がMPIaseとは異なっている。最小活性構造を明らかにするために、オリゴ糖と脂質部の合成に着手した。
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