研究概要 |
タルホコムギは3大穀物のひとつ,パンコムギにDゲノムを提供した祖先野生種で,ユーラシア大陸中央部に広く分布する。作物近縁種であり,これまで分布のほぼ全域にわたって収集と保存が行われてきたので,この種を対象に広域分布種の遺伝的多様性の研究を実施している。 分布域を網羅する122系統について,核遺伝子の塩基多型による集団構造と各種形態形質の関係を調べた。いくつかの形質で,分布域の東西に地理的クラインが認められるが,そのクラインは氷河期の終了にともなう分布域拡大が始まる前に,すでに存在した集団の分化に起因することが示された。 またこれまで,多様性が高いとされる西部(トランスコーカサス地方・イラン)の集団を中心に,各種調査がされデータが蓄積されてきた。本年度は,調査が手薄な東部(中央アジア、中国西部)の集団に光を当て,この地域由来の系統間で開花期変異を調査した。具体的には,イラン・トルクメニスタン・ウズベキスタン・キルギスタン・タジキスタン・カザフスタン・中国西部で収集された50系統を,非加温温室で栽培し,開花日数を調査した。その平均は157.4日(標準偏差6.9)であり,最も早生の系統(144日)と最晩生の系統(187日)の開花日数の差は,43日であった。これらのことから,タルホコムギは分布域の東部においても,相当規模の開花期変異を持つことが示された。 当初予定していた野生オオムギの研究については,分担者の異動に伴う圃場・実験室の変更のため実施できなかったが,別の研究者に新規分担をお願いし了承されたので,次年度より開始する予定である。
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