研究概要 |
タルホコムギでは,分布域を広くカバーする187系統についてDArT (Diversity Array Technology)マーカーによるジェノタイピングを行い,種内の遺伝的分化パターンを解析した。今回使用した7000のマーカーのうち,約4000で多型が見られた。このうち遺伝子地図情報のある253マーカーをつかって解析したところ,この種内には遺伝的に分化した3つのグループがあることが明らかとなった。この結果は,AFLPマーカーによる解析結果(Mizuno et al./2010 Mol Ecol 19 : 999-1013)と一致する。 野生オオムギ(Hordeum vulgare ssp.spontaneum)は,タルホコムギ同様ユーラシア広域分布種であるが,タルホコムギと比較して分布域がやや高温・乾燥の地域を中心としている。平成23年度は,ICARDAから分譲された野生オオムギ150系統および,岡山大学資源植物科学研究所で保有する野生オオムギ250系統について,5つの核遺伝子の多型解析を行った。現在,得られた多型を元に詳細な集団構造解析を進めている。出穂反応に関わる形質については,岡山大学保有の野生オオムギのうち161系統について春化要求性程度について調査した。その結果,約7割の系統は播性程度IIIに分類されること,7系統については春播性(非低温要求性)に分類される事が明らかとなった(Saisho et al.2011)。 また近縁野生種の適応形質の遺伝様式の基盤解明のため,エマルジナータ亜節の二種間でF2の遺伝解析を行った。その結果,穂の形態を形成する遺伝子座が,1つの連鎖群に集中して存在することがわかった。また六倍性種Aegilops juvenalisについても,遺伝的多様性の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成22年度は,当初予定していた野生オオムギの研究が分担者の異動によって出来なくなったが,タルホコムギの研究が予想外に進展した。そのため初年度が終わった時点で,研究組織を見直し新たなスタートを切ることが出来た。野生オオムギ研究は新規分担者に依頼し,またタルホコムギ近縁野生種を担当する分担者も加えることが出来た。そのため最終的には,当初計画した以上に幅広い研究を進めることが可能であると予想している。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に研究組織の見直しを行ったので,24年度は同じ体制で研究を推進する。内容的に一部追加した部分があるが,それは新規分担者の習熟している分野なので,とくに実施が困難であるとは考えられない。そのため,研究を遂行する上での問題点は特にないと考えられる。
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