研究課題
東アジア地域において、近年、政治が不安定になったタイ、マレーシア、フィリピン、韓国と、逆に政治が安定したインドネシアの5カ国を主たる対象とし、不安定と安定の理由をアジア通貨危機に関連づけて考察することが本研究の目的である。本年度は政治の不安定や安定の現状を的確に把握することに主眼をおき、さらにアジア通貨危機との関連について考察した。まず、複数の国の事例を比較することにより、安定に関する各国研究者の評価が過大あるいは過小であることを確認し、修正した。インドネシアは安定が続いており、マレーシアは揺らぎ始めた安定が2009年4月の首相交代後には回復されつつある。それとは対照的に、とりわけタイでは、不安定な状態が続いている。2010年には首都で総選挙の早期実施を要求するデモ隊への実弾発砲によって多数の死傷者が出るという混乱が生じた。混乱の遠因は1997年通貨危機にある。2001年発足のタックシン政権は、誰もが待望していた経済復興を成し遂げた。富者も貧者も受益した。しかし、受益度には濃淡差があった。危機の打撃を深刻に受けた負け組企業は、政権が自由主義路線を標榜して救済してくれないことに不満を抱いた。また、単独政権の発足で選挙結果が政策に直結するようになり、中間層を中心とする少数派が不安を抱くようになった。政治面と経済面のこれら負け組は、従来のような特別待遇を得られなくなったことに不満を抱いている。彼らの支持を受ける政治勢力が、2006年にクーデタを実行し、選挙無視に反発する有権者を強引に封じ込めようとしてきた。これが混乱の見取り図である。他方、中国、インド、ロシアの3カ国のうち、非民主主義体制が続く中国は、中東から北アフリカにかけてのいわゆる「ジャスミン革命」の余波により、民主化を求める声が強まり、対抗措置として強権的な封じ込めに乗り出した。
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国際情勢 紀要
巻: 81号 ページ: 143-159
タイ国情報
巻: 44巻5号 ページ: 1-12
巻: 44巻6号 ページ: 1-10