研究課題/領域番号 |
22320003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
一ノ瀬 正樹 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (20232407)
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研究分担者 |
松永 澄夫 立正大学, 文学部, 教授 (30097282)
天野 正幸 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (40107173)
高山 守 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (20121460)
榊原 哲也 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (20205727)
鈴木 泉 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 准教授 (50235933)
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キーワード | 物質 / 生命 / 人格 / 自由 / 責任 |
研究概要 |
一ノ瀬は、東日本大震災による津波震災の被害や原発事故による放射能問題に労力を注ぎ、哲学的因果論の観点からそれらの緊急的諸問題に関する論文執筆、口頭発表をおこなった。また、ハワイ大学で講演を行い、ヒューム生誕300年記念の雑誌特集にヒューム自由論の研究論文を掲載した。松永は、身体の感覚、身体の外の事象の知覚、体と体の外の事象との関係の一つとしての行動、これら三者の関係を精査し、特に知覚の生理学がどのような意義をもち、どのような限界をもつかを研究した。この成果は平成24年度に出版予定の『経験のエレメント』で発表される見込みである。天野は、アリストテレスの実体論の解明を継続しつつ、『ニコマコス倫理学』やプラトン『法律』を元に古代ギリシアの人格概念を検討した。高山は、ドイツ近現代哲学、とりわけ、カント、シェリングおよびヘーゲルの哲学を基盤に現代英米哲学の論議を取り込んだ自由論を追究し、自由を物理的法則性、因果的関係性のうちに位置づけるとともに、自由概念の家族論への展開を試みた。榊原は、自然科学に基づく医学的なものの見方と現象学的なケア理論を対照させ、「生命」および「人格」へのケアの諸相について現象学的立場から考察した。鈴木は「物質・生命・人格」の重層的連関について、メルロ=ポンティの思索を参照しつつ動物としての人間の身体の基礎的構造から解明するとともに、その探求を支える方法論を中世・近世哲学から探究した。信原はリベットの実験など、意識的意志による行動の際の脳内過程の研究から意志の存在に疑問が付されること、また道徳的判断の神経基盤から通常の道徳的判断にとって感情が不可欠な役割を果たすことは立証されうることを明らかにした。朝倉は、近世形而上学、現代哲学、および東アジア哲学における「生命」概念をめぐって、おもに存在論的な研究を行った。特に、個別性および他者との関係について解明を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2011年3月11日に発生した東日本大震災に関して、本研究においても、とりわけ放射線被曝問題について論ずべき機会を持つことができ、しかも研究代表者が編著者として参加した『低線量被曝のモラル』(河出書房新社)という論集も刊行できた。哲学的議論と自然科学の交差を扱う本研究にとって、まさしく本丸を形成する主題であり、それを機を逸することなく取り上げ、相応の成果として発表できたことは、たまたま発生した惨事をきっかけとするという点で良いこととは言えないが、研究の進捗という点では、当初の計画以上に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、放射線被曝問題や、津波震災などの自然災害をも論ずべきテーマとして意識することによって、哲学と自然科学の交差をめぐる本研究のテーマをさらに掘り下げていきたいと考えている。また、いくぶん時事的にはなるが、「死刑」をめぐる論争も近年の日本の文脈ではホットイシューの一つであり、この問題について、いわゆる「犯罪抑止効果」をめぐる統計的研究に関して、哲学・倫理の視点を交えながら、研究を深めていきたい。それ以外にも、「ケアの現象学」の研究、フランス哲学的な視点からの身体論・生殖論など、哲学倫理と自然科学とが事柄の本質上クロスオーバーしなければならない領域に勇気を持って切り込み、新しい視点を切り開くことを目指したい。
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