研究課題/領域番号 |
22320028
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
河合 正朝 慶應義塾大学, 文学部, 名誉教授 (30051668)
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キーワード | 太刀 / デジタルアーカイブ / 多色拡散反射装置 / 表面形態 |
研究概要 |
平成23年度の研究目的は、昨年度着手した太刀を完成させ、既存短刀対応多色拡散反射装置改良の基準・調整資料としながら、当該装置を太刀の撮像が可能となる状態に改良すること、研摩が日本刀の表面形態に与える影響を確認すること、および肉眼鑑識により一定の学術的評価がなされている太刀10口の撮像を行うことの3点である。装置の改良は昨年度の研究成果に基づき、ステージの幅を広げること、およびキセノンランプ光源光量を増やし、広域的撮像が可能となる装置に改良した。当初、現代刀工により作刀した試験用太刀の改良した装置による撮像を行い、装置細部の稼働状況を調整する予定にしていたが、東日本大震災により企画展実施計画の見直しが行われ、平成24年度予定していた特別展「名物刀剣一宝物の日本刀」(根津美術館・富山県水墨美術館・佐野美術館・徳川美術館の共同開催)を平成23年度に実施することになったため、企画展出典用太刀25口の撮像を先行して実施し、企画展図録および展示写真パネルに掲載した。また、プラズマモニターに刀身大の撮像結果を上映し、展覧会期間中に放映した。これまでの写真では確認不能な日本刀表面の微細構造まで画像化され、展覧会関係者および観覧者から高い評価を得た。企画展終了後、昨年度作刀した短刀を使い、拭いが日本刀表面形態に与える影響について調査した。「鉄肌」および「差し込み」とよばれる「拭い」を施した短刀表面の正反射スペクトルの短波長側の反射率が低下することが確認され、刀剣研摩が日本刀の表面形態に影響を与えることが確かめられた。このメカニズムの解明が今後の課題である。作刀した太刀の一方の表面は、現代最も標準的研磨方法である鉄肌ぬぐいとし、裏面は伝統的三種の研磨方法で実施した。研摩が完了した太刀の撮像と、撮像結果の解析は平成24年度実施することとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度までに短刀と太刀が作刀され、研究の基礎資料ができた。既存短刀用多色拡散反射撮像装置のステージ幅の改良、キセノンランプ光量の変更を実施した。平成23年度は作刀した短刀および太刀を使い、改良した装置での基礎実験を行うこととしていたが、平成24年度計画していた企画展を急遽平成23年度実施したため、平成23年度と平成24年度の研究を一部交換した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、平成23年度に改良された多色拡散反射撮像装置による表面形態撮装置を使用して、23年度に作刀した短刀及び太刀の撮像を行い、二口の刀剣の表面形態を比較検討する。また、伝統的鑑識技法のより表面形態の観察がなされ、刀剣研究家の間で一定の評価が得られている刀剣30口を撮像し、23年度に作刀した刀剣との表面形態の比較検討をおこなう。さらに、本研究協力者を交え解析し、その結果をまとめると共に、今後の研究課題を整理する。太刀撮像データのうち代表的データについては、一般文化財愛好家でも理解できる平易な解説文を加え、公益財団法人佐野美術館ホームページの公開を目指す。
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