研究課題/領域番号 |
22320028
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
河合 正朝 慶應義塾大学, 文学部, 名誉教授 (30051668)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 刀 / 撮像 / デジタル画像アーカイブ |
研究概要 |
平成24年度は刀剣研磨が日本刀表面形状に与える影響を確かめるため、平成23年度に作製した現代刀工による鎌倉時代の豊後行平と清綱の形態を併せ持つ実験用太刀表面を3分割し、各部位を3つの異なる伝統的研磨法(刃取研ぎ、差込み研ぎ、磁鉄鉱の拭い)で研磨した。太刀用に改良した多色拡散反射撮像装置で研磨表面を撮像し、刀剣鑑識家、金属工学、文化財科学、および刀匠からなる画像解析グループによって解析した。その結果、研磨法により太刀表面の平滑度および色調に明瞭な変化がみられることを明らかにした。 上記調査と並行し、撮り直しも含め個人コレクターが所蔵する刀剣35口の撮像を行い、その結果を整理した。撮像した刀剣は平安時代後期から江戸時代のもので、流派は山城伝、相州伝、備前伝、大和伝、および新刀に大別される。撮像結果を上記によって明らかにされた研磨法が刀剣地鉄表面に与える形態上の変化の影響を考慮に入れ解析した結果、平安時代後期から鎌倉時代中期の山城系および相州系刀工集団により作刀された地鉄の質感は、他の刀工集団による地鉄の質感と明瞭に異なることが判明した。平成25年度についてはこの要因を解明するため、山城系刀工集団および関連流派による刀剣を中心に撮像を進め、データベース化を図ると共に、撮像結果にみられる山城系および相州系刀工集団による刀剣地鉄の特徴の理由について、これまで行ってきた形態に地鉄の組成という要素を加味し調査する予定である。 なお、多色拡散反射撮像装置による日本刀の撮像原理については日本画像学会発行機関紙に、代表的相州系刀工による刀剣の撮像結果とその解説は公益財団法人佐野美術館ホームページに公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、研磨が日本刀表面形状に与える影響を確かめるため、平成23年度に製作した太刀に異なった3種の研ぎを施し、表面形態の比較検討を行った。その結果、同一刀工により作刀された刀剣でも研磨によって地鉄の質感が異なることが判明した。平成24年度までに実施した日本刀の撮像結果を、研磨の影響を考慮に入れ解析した結果、山城系・相州系刀工集団による刀剣は地鉄の質感が他の刀工集団による地鉄の質感と明瞭に異なることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
①平成24年度までに確立した太刀撮像技術を用い、56口の太刀および刀を多色拡散反射撮像装置で計画的に撮像する。これまでに得られた撮像データに、今年度新たに得られる撮像データを集成し、太刀および刀100口の撮像データベースを作成する。 ②平成24年度までに実施した撮像データの集成と今年度撮像を予定している太刀および刀の刀剣学的基本情報、および平成24年度に実施した複数の伝統的研磨方法が刀剣の表面形態、とりわけ地鉄の色に与える影響についての解析結果を整理し、その結果を刀剣鑑識家、金属工学、文化財科学の各研究者、および刀匠により構成される撮像画像解析チームで共有する。 ③刀剣研究者、金属工学、文化財科学の各研究者、および刀匠によって構成される画像解析チームにより、これまでの撮像データに、平成24年度の研究により明らかにされた伝統的研磨法が刀剣表面に与える影響についての知見を加え解析し、地鉄の色および刃文の状態に焦点を当て各調査資料の撮像画像を分類する。分類に当たっては必要に応じ日本刀地鉄の自然科学的調査に関する先行研究結果を使用する他、公益財団法人佐野美術館に保管されている太刀および刀の破片の表面形態を調査し、その結果も用いて分類精度を高める。左記分類結果に先行研究により明らかにされている調査太刀および刀の流派、作刀時期、および外観形状上の特徴を重ね合わせ、流派による日本刀表面形態の変遷過程について考察する。 ④一連の調査結果をまとめ、今後の研究課題について整理する。4年間の研究結果を集成し、併せて今後の研究課題について整理する。 ⑤調査結果の一部を公益財団法人佐野美術館で実施予定の特別企画展「生誕200年記念 清麿展」で公開する。
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