研究課題/領域番号 |
22320032
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
岡田 健 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, センター長 (40194352)
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研究分担者 |
鉾井 修一 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80111938)
小椋 大輔 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60283868)
津村 宏臣 同志社大学, 文化情報学部, 准教授 (40376934)
高林 弘実 京都市立芸術大学, 美術学部, 講師 (70443900)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 敦煌 / 壁画 / 色彩 / 劣化メカニズム / 環境 / 化学変化 / 解析 / 復原 |
研究概要 |
平成24年度は、平成23年度からの繰越経費を合わせて使用し、8月、11月、1月の合計3回現地での保存状態、環境、分析、美術史に関する各班合同による現地調査を実施した。 環境調査は、京都大学チームにより8月、1月の2回実施された。昨年度の調査から第285窟内部への光の侵入が壁画の劣化に及ぼす影響に関する研究を行う必要が認識されたため、照度の計測を中心に調査を実施した。第285窟は、20世紀後半になって修復の手が入るまで、恐らく数百年にわたって前室が存在せず、現在の主室入り口から直接外光が入っていた。このため、その当時の第285窟と状況が近似し、いまも前室がない第249窟での関連調査も実施した。 状態調査は、11月に第285窟天井のうち北面、南面について詳細な観察・記録作業を実施した。これまで複数の調査者によって作成された調査シートは劣化状態の認識と記録の仕方に差があるため、その修正作業を行った。研究室作業としては、引き続き保存状態を計量的に解析するための準備作業として、シート上に手書きで記録した状態に関するデータのデジタル化を進めた。 同志社大学が担当して、これらのデータの一部分を、開発したデータベースへ実装する作業を進めた。 分析調査は、引き続きXRF、光学顕微鏡による観察を続けるとともに、分光光度計による材質特性の把握に努めた。平成23年度分の繰越経費による調査と合わせて、XRF660点、顕微鏡165点、分光光度計257点についてのデータを得て、年度末までにそれらを整理・分析した。東壁仏菩薩像に用いられる青色に着目し、その分析成果を報告にまとめ、発表した。 調査を統合する美術史調査は、目視観察と分析調査を併用しつつ天井部禅定比丘、主室下段の薬叉像等の題材及び彩色の特徴を把握した。また8月の調査では、甘粛省西部の文殊山・金塔寺・馬蹄寺石窟等で関連調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天井部の劣化状態調査が完了し、蛍光X線、顕微鏡、分光光度計等による分析・撮影調査も平成23年度分調査の遅れを取り戻して順調に進捗している。環境調査は、これまでの温湿度と空気の挙動に関する研究とともに、光の影響という新たな視点を設け、着実にその成果をあげつつある。これらを関係づけ、第285窟の当初彩色を復原的に考察するための基礎的な準備はほぼ整ったので、次年度において第285窟に関する日中共同研究のまとめをしようとする目的はほぼ達成されようとしている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はこれまでに積み重ねてきた各種調査研究をもとに以下の内容について研究をまとめる。 すなわち、第285窟四壁及び天井に描かれた壁画の保存状態に関する計量的解析を進め、壁画の色料情報に関する定性的・定量的評価、及び石窟内の環境シミュレーションの結果をもとに、窟内構造との関係において壁画を構成する色彩の劣化に関するメカニズムを解明する。また、佛龕上部の彩色や各壁モチーフの構成との関連において配色の規律を推定する。これをもとに、全体像と言うのは時間的に困難があるものの、ある程度の壁画彩色に関する復原的考察を行う。 8月下旬には補足的調査を実施する。テーマに沿った研究会を随時開催して、報告書作成のための準備を進める。また年度末の段階で敦煌研究院からメンバーを日本へ招き、今回の日中共同研究の成果を報告する。
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