研究課題/領域番号 |
22320061
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
西山 清 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00140096)
|
研究分担者 |
植月 惠一郎 日本大学, 芸術学部, 教授 (10213373)
川津 雅江 名古屋経済大学, 法学部, 教授 (30278387)
大石 和欣 名古屋大学, 文学研究科, 准教授 (50348380)
吉川 朗子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (60316031)
金津 和美 同志社大学, 文学部, 准教授 (90367962)
|
キーワード | 環境感受性 / 動物愛護 / ディープ・エコロジー / ロマン主義 / 自然史・博物誌 / ジェンダー / 文化交渉 / 観光(ツーリズム) |
研究概要 |
平成23年度は以下5つの論点を中心に研究を進めた。 (1)ディープ・エコロジーと環境感受性:22年度に引き続き、自然と人間を同一の価値観で認識するディープ・エコロジーの思想とロマン主義との関係を検討した。主にS.T.コールリッジの神学および自然哲学思想におけるディープ・エコロジー的要素の理解を深めると共に、ロマン派の環境思想の現代的意義を考察した。 (2)環境感受性とジェンダー:ロマン主義時代の女性作家がテクスト上に表出した自然環境への感応を、ディープ・エコロジーや動物愛護等の観点から考察した。また、女性作家の環境感受性に対して、同時代の男性作家が示した反応を分析し、時代的文脈のより多元的な把握を試みた。 (3)環境感受性と動物愛護:18~19世紀における動物愛護と動物の権利の問題を、博物誌・自然史の眼差しに焦点をあてて分析し、その現代的意義を探った。 (4)ツーリズムと地誌:ワーズワスやコールリッジなどのロマン派詩人が、「場所」や「地誌」について持っていた意識や感受性と、後の時代におけるその受容を、ツーリズム文化における環境保護的意識の芽生えに焦点をあてながら考察した。 (5)文化交渉と環境感受性:イギリス・ロマン主義が、環境感受性を仲立ちに文化的「他者」と交渉し、変容を遂げていく過程を考究した。またこの問題の第一人者であるTimothy Fulford、Peter Kitsonを講師とした国際セミナー・講演会を開催し、新知見の提供を受けつつ議論を深めた。 *研究成果発表会: 第1回(2011.10.1)直原典子「コウルリッジにおけるホーリズムについて-ディープ・エコロジー的観点から」/小口一郎「美的自然から環境的自然へ-ワーズワスを中心に」 第2回(2012.3.3)川津雅江「女性と動物-トマス・テーラー『動物の権利の擁護』(1792)を中心に」/吉川朗子「文学観光と環境感受性-ガイドブックのなかのワーズワス」
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、自然環境と人間との関わりについて「環境感受性」という鍵概念を提案し、この感性の萌芽をイギリス・ロマン主義の中に探り、文学研究に新たな現代的意義をもたらすことを目的としている。過去2年間の研究において、環境感受性の原型をロマン主義の哲学および自然哲学の枠組みにおいて解明するを試みを行った上で、付随する複数の文化現象の動態を共時的・通事的に記述した。このように、当初の研究目的に沿って、環境感受性の系譜と動態、その現代的意義を順調に明らかにしつつあると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の3年間は、申請時の研究計画に素描したように、地誌・観光と環境感受性の問題を追求しながら、新たに農耕詩・農耕文学における感受性の問題へと考察の範囲を拡大し、これを起点として、共同体と環境、資源の有限性と文学的感性の問題へと研究を進めて行く予定である。また、環境感受性の根源的意義の理解を深化させるため、哲学や自然科学などの他の研究分野とも研究交流を行い、議論を発展させることを計画している。本研究の研究成果は、最終年度に国際シンポジウム、もしくは学際的イベントを開催することによって、広く学界および社会に発信し、あわせて出版物としての公刊も企画する。
|