研究課題/領域番号 |
22320074
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
山中 由里子 国立民族学博物館, 民族文化研究部, 准教授 (20251390)
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研究分担者 |
杉田 英明 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (90179143)
池上 俊一 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (70159606)
見市 雅俊 中央大学, 文学部, 教授 (30027560)
守川 知子 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (00431297)
橋本 隆夫 近代姫路大学, 看護学部, 特任教授 (20027791)
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キーワード | 驚異譚 / 比較文学 / 博物誌 / 異境 / 文化交流史 |
研究概要 |
国立民族学博物館における共同研究「驚異譚にみる文化交流の諸相-中東・ヨーロッパを中心に-」と連携させ、研究会を3回開き、研究代表者と分担者は本研究課題と各自の専門テーマの関連について発表を行った。また、本研究の分担者以外にも発表を依頼し、活発に議論を行った。 本年度第一回目の研究会は「驚異としての古代」をテーマとした。昨年度の研究会で採りあげた海や島の驚異譚の場合は、到達が困難である空間的な遠さが、異境の不可思議な現象に対する好奇心をかきたてが、古代遺物や化石はモノとしては比較的身近にあって実際に見ることができても、明確な来歴を不可知にしている時間的な「遠さ」が、それらを驚異的な存在としているのではないかということがわかった。 第二回目の研究会では、驚異と奇跡と魔術の相互関係を比較考察した。驚異譚と奇跡譚を比較してみて明らかになったことはまず、奇跡譚には空中浮遊水面歩行、病の治癒などといった一定の型があり、叙述の展開が予測可能であるという点において驚異譚とは異なるということである。これはキリスト教とイスラームに共通して言えることである。さらに、神を信じさえすれば、奇跡譚の真否は疑う余地がなくなるが、驚異譚の場合は、その信悪性を担保するため(あるいは責任回避するため)の叙述の仕掛けが必要であるということも明らかになった。 第三回目のテーマは、「驚異としてのアフリカ大陸」とし、中世のアラビア語資料に見られるアフリカ観について発表が行われた。さらに今年度の総括と、来年度以降の検討事項について討議を行った。 中東とヨーロッパの驚異譚に共通するテーマを毎回設定し、具体的なテクストや視覚的イメージの分析と比較を行うことによって、今後の研究を行う上での重要な概念軸-「自然・超自然・神」、「実在性・信慧性・科学的証明」、「語彙論・心理作用」、「収集・分類」など-が浮かび上がってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究会昏の出席率が非常によく、毎回、議論が活発に行われており、重要な概念の抽出や、今後検討すべきテーマの絞り込みが確実になされている。東西の驚異譚を比較研究するにあたって必要な共通の基盤がかたまってきており、今後もメンバー各自の意欲的な貢献が引き続き期待できる。 代表者・分担者各自は担当地域・時代におけるそのモチーフの表象に関連した資料収集と解析を進め、必要に応じて海外における文献、美術品、建築物などの現地調査や、海外の研究協力者との意見交換を行っている。共同研究会以外の場においても国内外で積極的に成果発表を行っている。これらの活動を通して、国内外の研究者ネットワークを拡げており、シンポジウム、展覧会等による成果発表の下地は順調に築かれている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も共同研究会を定期的に開き、これまでに明らかになってきた概念を軸としながら、「旅行者・探求者」、「驚異の編纂」、「視覚化された驚異」、「驚異の部屋から博物館へ」といったテーマを検討する。発表者以外にも、テーマに関連した具体的な事例を積極的に提供してもらい、各自が専門外の知識の幅を拡げることができるようにする。 代表者・分担者は個別の成果発表を引き続き行うが、パネル発表、あるいは国際シンポジウムの開催など、グループとしての成果発表の準備も同時に進める。展覧会のかたちでの成果発表も念頭におき、古書、古地図、写本のファクシミリ版の購入を行う。 分担者の橋本隆夫氏が残念ながら、病気のため死去された。あらたな分担者として大沼由布氏が、中世ヨーロッパにおけるギリシア・ローマ古典の受容を担当し、橋本氏の役割を引き継ぐ。
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