研究課題/領域番号 |
22320074
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
山中 由里子 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (20251390)
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研究分担者 |
池上 俊一 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (70159606)
杉田 英明 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (90179143)
見市 雅俊 中央大学, 文学部, 教授 (30027560)
守川 知子 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (00431297)
大沼 由布 同志社大学, 文学部, 助教 (10546667)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 驚異譚 / 比較文学 / 博物誌 / 異境 / 文化交流史 / 想像力 / ヨーロッパ / 中東 |
研究概要 |
国立民族学博物館における共同研究「驚異譚にみる文化交流の諸相-中東・ヨーロッパを中心に-」と連携させ、研究会を3回開き、研究代表者と分担者は本研究課題と各自の専門テーマの関連について発表を行った。また、本研究の分担者以外にも発表を依頼し、活発に議論を行った。 一回目の会では、驚異を媒介する「目撃者」としての旅人のトポスを採りあげた。驚きは「見る」という視覚体験によってまず目撃者に生じ、その目撃の共有が驚異譚であるともいえる。誰かが「見てきた」、すなわちそれは存在したという前提がなければ、読者は驚きを共有できない。作り話とわかっている話は、悲哀や熱情、興奮などの感情を喚起したとしても、日常的にはあり得ない奇異の存在に対する驚きにはつながらない。目撃者が必ずしも実在した人物ではなかったり、あるいは実在した人物の目撃情報とされていてもそれが史実ではありえない場合でも、「誰それが実際に見た」という証言が、驚異譚の信憑性を高める仕掛けとして機能していることがわかった。 二回目は「驚異の視覚化」というテーマを採りあげた。驚異を描いて「見せる」ことは、二次的な目撃者を作り出すという行為に等しい。中世の場合、画家自身が驚異を目撃しているわけではなく、驚異譚のテキストから想像し、自身が知っているもののかたちの誇張や、通常はありえない奇妙なものの組み合わせで視覚的なイメージが創生されていった。 三回目は、「驚異の編纂」をテーマとした。旅行記などに含まれていた驚異の目撃譚がもともとの文脈から抽出され、博物誌や百科事典といった知識の集大成として編纂される過程をヨーロッパと中東の場合で比較した。 今年度から、各会のテーマに関連した事例紹介を発表者以外からもつのっている。研究発表に劣らない事例紹介によって議論がより充実し、歴史的、地域的な大きな展開を把握することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も研究会への出席率が非常によく、毎回、議論が活発に行われており、重要な概念の抽出や、今後検討すべきテーマの絞り込みが確実になされている。東西の驚異譚を比較研究するにあたって必要な共通の基盤がかたまってきており、今後もメンバー各自の意欲的な貢献が引き続き期待できる。研究会での発表と議論をふまえ、成果となる論文集の構成も概ねかたまりつつある。 代表者・分担者各自は担当地域・時代におけるそのモチーフの表象に関連した資料収集と解析を進め、必要に応じて海外における文献、美術品、建築物などの現地調査や、海外の研究協力者との情報交換を行っている。共同研究会以外の場においても国内外で積極的に成果発表を行っている。これらの活動を通して、国内外の研究者ネットワークがますます拡がり、シンポジウム、展覧会や論文集等による成果発表の下地は順調に築かれている。 代表者の山中と分担者の大沼がポツダムで開かれた日独先端科学シンポジウムにおいて、本研究課題に関連した研究発表をし、自然科学系の研究者たちから示唆に富んだ反応を得た。また現在、分担者の見市が企画の中心となり、中央大学の総合雑誌『中央評論』において「驚異と好奇心」という特集を編集しつつある。一般読者や学生に本研究内容を分かり易く紹介する媒体となることが期待される。 業績リストにあるとおり、メンバー各自、関連した論文や単著などの刊行物を着実に成果として発表している。
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今後の研究の推進方策 |
代表者・分担者各自は担当地域・時代におけるそのモチーフの表象に関連した資料収集と解析を進め、必要に応じて海外における文献、美術品、建築物などの現地調査や、海外の研究協力者との国際情報交換を行う。その成果は各自、口頭発表や論文において発表すると同時に、共同研究の場において、他のメンバーと共有する。本課題は、国立民族学博物館における共同研究「驚異譚にみる文化交流の諸相-中東・ヨーロッパを中心に-」と連携しており、今後は「モノとしての驚異」(あるいは驚異のマテリアリティ)というテーマを検討する予定であり、さらに成果発表に向けての打ち合わせや協議も行う。 さらに本年度から開始する人間文化研究機構の小型連携研究「驚異と怪異の表象―比較研究の試み」(代表:山中由里子 平成25年度―平成27年度)との連携も行う。これは、本研究と国際日本文化研究センターの小松和彦教授が率いてきた共同研究「怪異・妖怪文化の伝統と創造―研究のさらなる飛躍に向けて」の成果を対照させるものであり、未知なるものをめぐる思考様式の地域性や時代性を浮かびあがらせ、伝承やイメージの東西伝播を明らかにしようとするものである。双方のコアメンバーで集まり、これまでそれぞれの機関の共同研究で議論してきた内容を双方に報告し合い、驚異と怪異にまつわる中心的概念、代表的な事例、歴史的文脈に関する情報の共有につとめる。これまでの研究成果を対照し、比較研究の軸線となる概念を抽出するべく、討議を重ねる。 代表者は博物誌関係書籍や古地図など、古書や複製版で入手可能なものがあれば積極的に購入する。海外の図書館が所蔵する古地図や挿絵写本などの複製画像の入手にも努める。研究に必要な古書・地図・写本複製などは、コーパスとしてのまとまりを保つことができるよう、分担者の依頼に従って代表者が購入し、国立民族学博物館にまとめて保管することとする。
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