研究課題/領域番号 |
22320074
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
山中 由里子 国立民族学博物館, 民族文化研究部, 准教授 (20251390)
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研究分担者 |
池上 俊一 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (70159606)
大沼 由布 同志社大学, 文学部, 助教 (10546667)
杉田 英明 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (90179143)
見市 雅俊 中央大学, 文学部, 教授 (30027560)
守川 知子 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (00431297)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 驚異譚 / 比較文学 / 博物誌 / 異境 / 文化交流史 / 想像力 / ヨーロッパ / 中東 |
研究概要 |
国立民族学博物館における共同研究「驚異譚にみる文化交流の諸相-中東・ヨーロッパを中心に-」と連携させ、研究会を2回開き、研究代表者と分担者は本研究課題と各自の専門テーマの関連について発表を行った。一回目の会のテーマは「驚異の蒐集」とし、知識としてだけではなく、「モノ」としての驚異の物質性と、それを集めるという行為について考察した。ヨーロッパでは大航海時代以降、特権階級が世界中から集めた驚異なるモノ(珍しい動物のはく製、奇形の標本、鉱物、民族資料、遺物など)を陳列する「驚異の部屋」(ヴンダーカマーまたはキャビネット・オブ・キュリオシティーズ)を造った。ナポレオンの時代以降は、これらの蒐集物は接収され、自然物は自然史博物館に、人工物は美術館や博物館にと振り分けられ、近代的な博物館コレクションのコアとなった。近世・近代にかけて驚異は手に取ってみることができるモノとなり、次第に飼いならされてゆくという過程が見えてきたと同時に、中世的な文脈においては自然界に関する「総合知」の一部であった驚異は、近代科学の周縁に追いやられてゆくことが明らかになった。 2回目の会では、成果刊行に向けての議論が行われ、『<驚異>の比較文化史』という仮題の論文集の章立てが固まった。一冊の本の構成として、中東とヨーロッパの比較すべき要点は、かなりおさえられたかと考える。しかし、中世的な驚異の黄昏期、つまり近世・近代へのつながりに関しては、中東での展開がヨーロッパの場合ほど明確に見えてこないという課題が残った。出版物においてはその部分を補えるよう、代表がメンバー外の執筆者と交渉した。すでに原稿も集まりつつあり、名古屋大学出版会とともに編集作業を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
業績リストにあるとおり、メンバー各自、関連した論文や単著などの刊行物を着実に成果として発表している。また代表者は、7月にパリ大学で開かれた国際比較文学会大会の幻想文学パネルにおいて、9月にはミュンスター大学で開かれたドイツ東方学会において、11月には東京大学比較文学比較文化研究室主催の国際コロキウムにおいて、さらに3月にはヘブライ大学で開かれた国際ワークショップ「中世アラブ・ペルシア文学における著作権の概念」などにおいて積極的に成果発表を行い、海外の研究者とのネットワークを拡げた。 代表者・分担者各自の成果発表にとどまらず、これまでの調査や研究会での発表と議論が、確実に論文集のかたちにまとまりつつある。『<驚異>の比較文化史』という仮題で、「I.驚異とは何か」、「II.驚異の編纂と視覚化」、「III.驚異のトポス」、「IV.驚異の死と再生」という四章立ての論文集となる。名古屋大学出版会から2015年度に刊行予定である。 さらに、人間文化研究機構連携研究「驚異と怪異の表象―比較研究の試み」(代表:山中由里子 平成25年度―平成27年度)とも連携させ、本課題の次なる展開の可能性を探り始めた。11月に国際日本文化研究センターで開かれた国際研究集会「怪異・妖怪文化の伝統と創造― ウチとソトの視点から」で代表者が発表し、連携研究メンバーとの意見交換を行った。 以上のように、成果刊行の準備が着実に進んでいると同時に、本研究のさらなる展開の検討に入ったという点において、順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
代表者は本研究の統括となる論文集の編集に取り組む。また、代表者は引き続き博物誌関係書籍や古地図など、古書や複製版で入手可能なものがあれば積極的に購入する。海外の図書館が所蔵する古地図や挿絵写本などの複製画像の入手にも努める。 さらに人間文化研究機構の連携研究「驚異と怪異の表象―比較研究の試み」との連携を進める。この連携研究は、本研究と国際日本文化研究センターの小松和彦教授が率いてきた共同研究「怪異・妖怪文化の伝統と創造―研究のさらなる飛躍に向けて」の成果を対照させるものであり、未知なるものをめぐる思考様式の地域性や時代性を浮かびあがらせ、伝承やイメージの東西伝播を明らかにしようとするものである。「驚異」と「怪異」をキーワードに、不可思議なものをめぐる人間の心理と想像力の働き、言説と視覚表象物の関係、心象地理の変遷などを検討する。その成果は国立民族学博物館における特別展示のかたちで公開することを予定している。 中東とヨーロッパという一神教世界の事例を中心に検討してきた「驚異」の研究の視野を今後は東アジアにも拡げ、「驚異」に対して「怪異」という概念を対置させる。「驚異」および「怪異」は、既知の世界の彼方にある不可知なるものを知ろうとする人間の営みが生み出したものであり、これらを比較することによって、人間の想像力と表象物の相関関係や、背景にある宗教感・世界像などを解明することができる。「驚異」と「怪異」を対照するためのキー・テーマをいくつか探り、その焦点を通して東西という「水平」の比較だけでなく、それぞれの背景にある宗教感・世界像の変化を歴史的に追うという「垂直」の比較も行う。本年度は比較研究の軸線となる概念を抽出するべく、メンバーやその他の専門家を研究協力者として招き、ワークショップを開催し、討議する。
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