本研究では茨城県東茨城郡大洗町在住のインドネシア人就労者コミュニティーにおいて第二世代の児童生徒の日本語習得とインドネシア語習得(母語継承)について縦断的な調査を行った。最終年度においては全数調査を目指して、フロッグストーリー(邦題『かえるくん、どこ』)による即興的な語りを日本語とインドネシア語の両言語で行ってもらうという手法に加えて、児童生徒の大部分が所属するプロテスタント教会で唱えられる「主の祈り」を日本語とインドネシア語で暗唱、または音読してもらい、その話速を計測するという音響音声学的手法で日本語とインドネシア語の流暢さを定量的に計測した。後者の実験には3名の比較的インドネシア語能力の高い中学生と高校生に協力してもらい、日本語とインドネシア語の音節あたりの時間を計った。その結果、インドネシア語能力の高さと発話速度の速さに相関が見られることが分かった。また、フォローアップインタビューの結果、日本語とインドネシア語能力の均衡性の高いこの3名には思春期以降にキリスト教に対する信仰心の強まりとインドネシア人としてのアイデンティティの再形成が起きたことが窺われ、日本で幼少期から生活していながらもコミュニティの中での生活を通してインドネシアに対する心理的距離、および社会的距離を近く感じることが生活言語および学習言語である日本語に加えて、インドネシア語を習得する促進要因になっている可能性が窺われた。また、高校に進学し、将来の職業をほぼ決定している生徒、および将来の職業をはっきりと決めている中学生の場合は」「インドネシア語ができることが強みになる」という発言をしており、グローバル化する社会状況を見据えて、道具的動機によってもインドネシア語の習得が進んでいる可能性が窺えた。
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