研究課題/領域番号 |
22320122
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
飯島 渉 青山学院大学, 文学部, 教授 (70221744)
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研究分担者 |
原 正一郎 京都大学, 地域研究統合情報センター, 教授 (50218616)
門司 和彦 総合地球環境学研究所, 研究部, 教授 (80166321)
塚原 東吾 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80266353)
五島 敏芳 京都大学, 総合博物館, 講師 (90332139)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | グローバル化 / 感染症 / 日本住血吸虫 / 国際保健 / 医療情報学 / 国際研究者交流 / ラオス / 中国 |
研究概要 |
本年度は、日本住血吸虫病を中心として、感染症が中国を中心とする東アジア(日本を含む)および東南アジア(ラオス、フィリピンなど)の社会に対して、どのような影響をおよぼしたかを調査し、検討した。本年度の具体的な調査先としては、国内は琉球大学医学部、沖縄県公文書館、総合地球環境学研究所(琉球大学医学部資料が一時的に保管されている)など、国外では、中国(上海、雲南)、台湾などの調査対象地域と資料を所蔵する関係機関であった。本年度の調査では、本研究に関連の深い医学研究者の残した一次資料についても系統的な整理を行った。このような資料は、経年という理由を含め、その資料が置かれている様々な事情により、現在、散逸や廃棄あるいは劣化の危機にさらされていることが少なくない。こうした調査は速やかに行なわれる必要があり、本研究では今後も継続してこうした資料群の把握と整理にとりくんでいく予定である。 これらの調査研究の成果は、歴史学の研究成果とするだけではなく、民族衛生学会や日本寄生虫学会等での講演などの社会的発信を通じて、その公表と社会化を行った。 研究分担者や在外研究者との研究交流では、2013年1月に上海交通大学で研究打ち合わせを行なった。また、同月には、京都で、本年度の研究の総括と本研究全体の中間的総括、および次年度以降の研究計画に関する会議を行なった。その結果、次年度は、本年度の研究・調査の成果を受け、(1)対象地域は、国外はフィリピン、国内は広島県片山地方を重点とする、(2)関連資料の調査・整理を引き続き推進する、(3)最終年度である2014年度に向けて研究を整理し、研究論文集などのかたちでの成果の公表を検討する、ことを重点項目とすることを決めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国には、各県単位で公文書館に関係の一次資料が保存されているため、中国の研究者との共同作業および緊密な連携によって、予想以上の膨大な資料を把握することができた。この点は、一般に感染症対策や寄生虫病対策の資料をほとんど廃棄してしまった日本の状況とは対照的である(なお、沖縄に関しては、米軍統治との関係も含め例外もある)。この点は、資料の保存やその整理に関する政治文化の違いとしても意識することができる。 なお、雲南省や上海近郊に関しては、地理情報システムも援用した感染症対策の整理や日本住血吸虫病対策の推移を検討している。但し、大きな問題は、地理情報システムを利用する際に基礎となるベースマップを得られないことである。この問題を解決するため、現在、さまざまな方法を講じているが、日本軍が作成した外邦図の利用も含め、分析の可能性を探っている。こうした作業には、疫学や動物学の分野の専門家からも協力を得ており、こうした作業プログラムが実現すれば、歴史学的な知見および手法の革新に大いに寄与するものと考えらえる。以上のような手法をフィリピンのレイテ島などの分析に援用可能かどうかを今後の課題としたい。 以上のように、本研究の過程で、膨大な資料群と出会ったため、その資料の整理・調査等に多くの時間を費やすこととなったが、そのことによって研究自体が停滞することはなかった。むしろこうした資料調査により本研究の深化が期待されると考える。国外や国内における調査についても概ね計画通りに遂行されている。しかし、例えば調査地域の拡充の必要など調査のなかで新たな問題点や発展点が明らかになることも多かった。その点は今後フレキシブルに対応し、さらなる研究の発展を模索していくこととしたい。
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今後の研究の推進方策 |
中国政府は、日本住血吸虫病については2020年までに国内すべての流行地を根絶することを目標としている。中国政府が進めている政策は、きわめて野心的な内容だが、政策自体が貧困地域での社会政策としての位置づけをもつなど、政治的な問題も含んでいる。また、水資源の安定的な確保をめざした大規模な水源開発である三峡ダムの建設に伴う揚子江流域地域での環境変化や地球温暖化の進展によって、オンコメラニアの生息地域が拡大し、これまでは感染の見られなかった地域での感染が発生するなどの状況も出現している。こうした状況は、とくに、湖南省や湖北省などの農村地域において顕在化している。日本住血吸虫病は人畜共通感染症であり、牛や馬などの放牧地での流行があるため、中国ではその最終的な根絶はきわめて難しいことが予想される。日本での根絶は、山梨などの流行地域がきわめて限定的で狭い地域の流行であったこともその一因である。これまでの研究は、どちらかといえば1960年代までの調査が主であったが、今後は、こうした現代的な問題にも調査対象を拡大し、中国の研究者との共同研究のネットワークを構築していきたい。 フィリピンでは21世紀に入ってからも新たな患者が発生している。この背景には、各島嶼部での生業の変化などが影響していると考えられる。このように日本住血吸虫症をめぐる問題は非常に現代的であり重大な問題である。こうした状況を本研究では更に強く意識して研究に取り組むこととする。そのため、現地調査では歴史的な問題と同時に現在的な状況についても関心を寄せ、流行状況を整理し、収集した資料・情報についても、疫学的な情報として整理を行なうことを目指したい。そうした作業を踏まえながら歴史学の手法による日本住血吸虫病の根絶に向けた対策への提言のあり方を模索していきたい。
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