研究課題/領域番号 |
22320122
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
飯島 渉 青山学院大学, 文学部, 教授 (70221744)
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研究分担者 |
原 正一郎 京都大学, 地域研究統合情報センター, 教授 (50218616)
門司 和彦 長崎大学, 国際健康開発研究科, 教授 (80166321)
塚原 東吾 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80266353)
五島 敏芳 京都大学, 総合博物館, 講師 (90332139)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | グローバル化 / 感染症 / 日本住血吸虫 / 国際保健 / 医療情報学 |
研究概要 |
本年度は、日本住血吸虫病の流行状況の調査およびその抑制対策の歴史的推移に関しては、特にフィリピンに重点をおいて調査研究を実施した。具体的には、レイテ島のSchistosomiasis Control and Research Hospital等での調査を実施すると同時に、独協医科大学の千種雄一教授のサポートを得て、流行地での実地調査を実施した。日本住血吸虫病は、フィリピンでは依然として多くの患者が見られ、その対策は現在も重要な課題となっている。フィリピンでの日本住血吸虫病対策では、戦後、多くの日本の医学研究者や開発援助団体が協力しており、今回の調査ではその詳細な実態を知ることができ、研究課題の達成のために重要なステップとなった。しかし、調査対象とした地域は、2013年11月の台風30号により甚大な被害を受け、多くの資料が破損し、海水による浸水資料となってしまった。レイテ島における被災した資料は、歴史資料としても、また現在の疫学的な状況の調査のためにもきわめて重要であり、この救助(データ・レスキュー)が緊急の課題である。こうした事情も含め、研究成果を2014年1月にマニラで開催された東南アジア医学史国際会議で発表した。 国内においては、国立感染症研究所と目黒寄生虫館に収蔵されている感染症関連資料についての資料調査を行った。国立感染症研究所には多くの感染症研究者の関連資料が残されているが、今回は、小宮義孝を中心にその資料を確認し、大前比呂志教授のサポートを得て、保存措置等も実施した。本年度では終了できなかったため、この作業は次年度も継続していく予定である。目黒寄生虫館には、山口左仲、大鶴正満などの寄生虫学者の資料が収蔵されている。これらに関しても、資料ごとの状況を把握して保存措置などを行ない、アーカイブズ学的な手法にも留意して調査を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の重点地域であったフィリピン、特にレイテ島での調査は、2013年8月の第一次調査ののち、2014年1月にマニラで開催された東南アジア医学史会議の前後に再度調査を行うことを予定していた。しかし、台風の被害が甚大であり、レイテ島の治安状況や社会状況が安定しない段階で再度調査を行うことは、フィリピンの関係者にも迷惑がかかることを懸念して、本年度の第二次調査は断念した。このため、資料の整理は、予定よりも遅れている。しかし、こうした災害からのデータ・レスキューの必要性や方法を検討する機会を得たともいえ、たいへん貴重な経験となった。実際のところ、その被災の状況は深刻であり、次年度には、修復にも積極的に関与することを検討している。このため、日本熱帯医学会などとも連絡をとっている。 国内の資料調査では、国立感染症研究所や目黒寄生虫館において、それぞれ複数回、継続的に調査を実施し、かなりの成果を収めることができた。但し、それらの調査によって得られたデータの整備は、その量が膨大になってきており、電子化などの整理が追い付いていない状況もある。今後はそのための対策を再検討することとしたい。 本年度は、地理学(GISシステム)研究者、情報学、疫学研究者との連携を更に深め、実際の調査や会議等で学際的な議論を深めた。こうした調査の方法の革新は、今後も継続・発展させていきたい。 以上のように、本年度はフィリピンでの調査が大きな進展を見せ、また、国内資料の整理も進んだ。疫学的な検討も含め、新しい研究手法の検討も進展し、方法的進展は顕著であった。他方、レイテ島の資料の被災という予想外の事態にも直面した。しかし、こうした事態を通じて、単に資料を整理し、研究するという資料の消費者の立場にとどまることなく、「資料をつくる」という立場を強く意識できたことは大きな進展であった。
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今後の研究の推進方策 |
フィリピンでは21世紀に入ってからも日本住血吸虫病の患者が新たに発生していたが、その上に更に今回の台風30号の被災があった。この結果、日本住血吸虫を媒介するオンコメラニアの生息状況が大きく変化することが懸念される。すなわち、台風災害によって、日本住血吸虫病のリバイバルが懸念される状況となっているのである。こうした状況に対する歴史研究者の貢献を強く意識し、まず、レイテ島にある被災資料の救助なども含めた調査活動を行うことにしたい。特に、レイテ島パロのSchistosomiasis Control and Research Hospital等での日本住血吸虫病抑制対策の歴史資料の保全と調査は、歴史研究者が積極的に関与すべき課題である。この面に関しては、現在、日本熱帯医学会や独協医科大学の千種雄一教授とも緊密な連絡を取って、具体的な対策を立案している。 国内の調査については、国立感染症研究所、目黒寄生虫館での調査を今後も継続する。この2機関は、別々の機関であるため、収蔵資料の生成過程も個別であるが、ともに日本住血吸虫を中心とする感染症、その抑制政策に関する貴重なデータを多く蓄積している。 次年度は最終年度にあたるため、資料の整理に関しては、そのまとめにも力点を置く。研究の過程で蓄積した膨大なデータを電子化しながら、個々の研究論文とすると同時に、その汎用の可能性も模索したい。研究計画全体の総括を行い、研究分担者、および研究協力者との全体会議を開催し、研究成果の整理と今後の課題を展望する。 また、本研究計画では、歴史研究者が軸となって、国際保健、医療情報学、科学史、アーカイブス学などさまざまなアプローチの研究者と共同研究を進めてきた。こうした学際的手法を、関連分野の研究にも生かせるような方法的な革新に関しても、積極的に研究発信を進めることとしたい。
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