研究課題/領域番号 |
22320130
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研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
根岸 茂夫 國學院大學, 文学部, 教授 (30208285)
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研究分担者 |
古相 正美 中村学園大学, 教育学部, 教授 (30268966)
鈴木 淳 国文学研究資料館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (40162953)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国学 / 荷田春満 / 歴史学 / 文学 / 神道学 |
研究概要 |
本年度は、昨年度・一昨年度の調査結果を踏まえ、荷田春満(1669-1736)を中心とした前期国学の潮流が、近世学問および文化・社会・政治に及ぼした具体的影響を追究することに重点を置いた。その際、同時代における門人などの動向に着目することによって、春満学が時間的・空間的・人間的にどのような連繋をもって博洽していったのかを明らかにした。 定例研究会では、春満の実弟荷田信名が筆記した『江戸在府之日記』を検証し、それに基づき人名等のデータ化を実施した。その結果、1)江戸における門人が、大名・旗本・藩士層、神職や僧侶、商人や医師など、多岐に亘る幅広い人脈で構成されていた。2)地域社会の文化の発展に、門人の存在や国学の浸透が密接に結びついていることが確認できた。3)春満と師弟関係にあった門人との交誼が、春満の没後も、実弟の信名らによって連綿と引き継がれ、拡大する傾向にあった。以上、従来不明であった門人等の動向に関する新たな知見を得、研究を進展させた。 8月6日~9日にかけて京都市伏見区東丸神社へ出張し、東羽倉家文書の調査と分析を行った。定例研究会に用いた『江戸在府之日記』の原本照合を行い、さらに信名の家記や春満の娘直子の書状の原本照合を行い、春満没直後の伏見の動向を検討した。調査整理の過程では数点の新出史料を発見し、過去にフィルム撮影された史料は改めてデジタル撮影を行った。他に、東羽倉家文書の社家関係資料を中心に目録の確認、増補改定を行った。並行して史料の防虫・防湿などの措置も施した。 ホームページにて、本年度に開催された研究会の成果とともに、春満自筆「念三記」、「宝永四年日次記」、「和書真偽考」のデジタル画像 を新たに公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
荷田春満の江戸における諸活動が判然としなかったのは、江戸における門人たちの動向が不明瞭であったことに拠る。今回の研究会においては、『江戸在府日記』をはじめとする諸史料の収集と検討により、これまで未詳であった門人群の階層や居住地・出身地などを明らかにすることができた。これにより荷田春満が長らく活躍した江戸における前期国学の動向がより明確になってきた。これら諸史料をデータ化したことが、本年度の大きな成果のひとつであり、これにより前期国学が江戸における春満の活動を通じて、各地にどのように浸透していったかの基盤を把握することが可能となった。 合わせて、荷田春満の未知の和歌史料を収集する作業も行い、既存の歌集史料と合わせ、荷田春満の詠草をほぼ網羅的に概観することが可能となった。これにより近世和歌史における春満とその一門の和歌の位置づけを検討することが可能になった。 いまひとつは、伏見稲荷における社家と僧侶の抗争について、荷田春満の弟信名が目安箱に投書した一件史料を検討した。そこから社家の置かれた社会的な状況とともに、近世における宗教のあり方、裁判や政治に関する問題も検討できるようになった。 史料の検討の中で、荷田春満の娘である直子の江戸における生活の実態などが判明し、近世における女性の生活や教養、武家奉公の実態といった、近世における女性の行動が合わせて明確になってきた。これにより近世女性史の研究などにも一石を投じることができ、近世国学の研究基盤ができただけでなく、そこから派生する近世のさまざまな問題点も検討できた。 以上の作業によって、検討すべき今後の研究課題を明確にした。またホームページを拡充し、史料を公開することにより、日本近世史を始めとする各研究分野へも寄与・貢献を図った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は最終年度にあたり、前年度に引き続いて定例の研究会を開催する。研究会では、史料の講読、史料紹介、さらに研究発表と討論を重ねることにより、成果公開の場のみならず、若手研究者の養成の場としてこれを運営する。 昨年度に引き続き、東丸神社所蔵「東羽倉家文書」、伏見稲荷大社所蔵史料の現地調査を実施し、恒常的に史料の収集に努力しながら、今後に向けて研究課題を検討をさらに重ねていく。 成果公開の場として、今年度、シンポジウム形式で外部研究者を招き、研究集会を実施する。研究集会では、他の研究との接触や学際的な連携を目指し、相互に多角的な意見を交換しながら、研究の幅を広げていきたい。 最終年度に当たって、研究成果をまとめた報告書などを作成・刊行し、内外の研究者へ総合的な成果を発信する。研究会で得られた成果などは、ホームページに反映して、これを充実させる。こうした全体的な研究活動を通じて、若手研究者に研究の場を与え、さらに養成を続けていく。 以上の研究を通じて、諸方面に亘って摘出された研究課題をさらに検討を重ね、今後の新たな研究を模索し、一層研究を進展させていきたい。
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