研究課題/領域番号 |
22320134
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
海老澤 衷 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (60194015)
|
研究分担者 |
井上 聡 東京大学, 史料編さん所, 助教 (20302656)
清水 克行 明治大学, 商学部, 准教授 (40440135)
高橋 敏子 東京大学, 史料編さん所, 准教授 (80151520)
清水 亮 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (90451731)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 土地台帳 / 切絵図 / たたら生産 / 水田農耕 / 備中国新見荘 / 総合的復原研究 / 多層荘園記録システム / 水利 |
研究概要 |
本年度は、高梁法務局にある土地台帳の蒐集を重点的に行い、ほぼ7000程度の地名を確認することができた。また、新見市役所において「切絵図」のコピーを行い、これも荘域全体をカバーする状況となった。さらに、新見市役所の土地管理システムの航空写真図の使用が可能となり、土地台帳-切絵図-航空写真図の連携的な使用によって明治期の地名の地理的な把握が詳細にでき、東寺百合文書に記された荘園地名との照合が可能となった。7月には「ワークショップ3」を開催し、高梁傑「内の草集落について-多層荘園記録システムの試み-」の報告があり、さらに地元研究者の報告により村落生活の復原や新見荘の商品生産に関する考察が一歩前進した。 また秋には、新見市教育委員会と地元の有志によって進められている、大規模な中世たたら製鉄の復原実験について一昼夜にわたる観察を行った。その結果、中世のたたら生産によってもたらされるケラ(日本刀などの素材となる鋼鉄の原料)とズク(鋳物の原料)および実験過程で排出されるノロ(鉄滓)に関する明確な認識を共有することが出来るようになり、また水田農耕とたたら生産との関係も明らかにすることができた。 当初の研究計画では、荘域全体を7つのブロックに分けたが、状況に応じて統合再編を行い、4つの班に組み直した。A班(坂本・千屋)、B班(上市・足立)C班(高瀬・釜)、D班(西方・金谷)とし、水路と地名照合に重点をおいて地域の調査を進めた。3月にはワークショップ4を開催。特に第1部として若手研究者発表会を行い、大島創「鎌倉後期の新見荘領家職相論の再検討」、飯分徹「漆・漆枡・塗師」、久下沼譲「新見荘代官祐清の年貢収取を巡る動向について」、土山祐之「足利義政御判御教書と新見荘」の報告があった。続いて第2部として来年度7月に予定されている総括的シンポジウム「中世村落の総合的復原研究」の準備報告会を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究分担者4名について予想通りの協力を得ることができ、また地域の研究者および新見市教育委員会、新見市税務課などから必要な情報提供を受けられたので、おおむね順調に進んでいる。具体的に述べれば、研究分担者のうち2名は東京大学史料編纂所に勤務しているが、そのうちの1名からは東寺百合文書に関して詳細なアドバイスを受けることができ、もう1名のスタッフからは荘園調査のデジタル的な情報処理の方法に関してもっともアップデートな意見を得ている。さらに明治大学に勤務する分担者からは本人の本荘園に対する強い問題関心から鋭いアドバイスがあり、また埼玉大学勤務の分担者からはワークショップ4で報告を行った若手研究者に的確な意見をいただいている。 以上に加えて、現地において新見市教育委員会のきめ細かい対応を得ており、地元の研究者との有機的な協力体制が構築できた。特に、たたら製鉄の復原研究についてはリーダーおよび岡山県古代吉備センターのスタッフから多くの情報が寄せられ、従来の研究を一歩前進させることが可能となった。また、平成の合併により新に新見市となったところにあっては、旧役場が支局となっているが、そこから積極的な資料提供がある。一例を挙げれば、新見荘の荘域には旧神郷町が含まれるが、この地を継承した神郷支局では高瀬・釜地域の切絵図等に関する閲覧について丁重に対応していただき、多くの情報を得ることができた。 さらに地域ごとの調査ブロックのなかで、檀家寺院として存在する曹洞宗の寺院の住職の積極的な協力があり、信仰状況、石造物などの調査もおおむね順調であると言える。住職と檀家との間の信頼関係が密であり、荘園調査にきわめて協力であることが理由として挙げられる。
|
今後の研究の推進方策 |
従来の方策で、おおむね順調に進んでいるので、大きな方向転換をせず、残り1年間を有効に活用したい。具体的な方策は次の通りである。 (1)地域ブロックごとの成果の確認→早い時期(5月の連休中)にA班(坂本・千屋)、B班(上市・足立)C班(高瀬・釜)、D班(西方・金谷)のそれぞれについて最終調査を実施、特に水路と地名の調査に重点を置き、航空写真図、森林基本図、大判の国土地理院図などに記入し、各班別に成果をまとめる。 (2)シンポジウム「日本中世の荘園空間と水利」の開催(6月17日予定)→地域ブロックごとの成果をそれぞれの担当ごとに「西方・金谷地区の水利と地名」・「足立・上市地区の水利と地名」・「坂本・千屋地区の水利と地名」・「高瀬・釜村地区の水利と地名」として報告。さらに「備中国新見荘史料の所在と年次比定」として新見荘史料の編年目録を提示してこれまでの荘園調査の基礎的調査の成果を明らかにする。 (3)シンポジウム「中世村落の総合的復原研究」(7月13日開催予定)→海老澤衷が「多層荘園記録システムの構築に向けて」、白石祐司が「新見市たたら再現事業の経緯」を報告した後、第1部「新見荘調査の成果」、第2部「新見荘研究の現在」、第3部パネルディスカッション「新見荘の未来―共同研究とたたらの伝承―」を行う。このシンポジウムで総括的な成果の確認を行い、今後の共同研究の方向性を考える。 (4)新見荘調査報告書の刊行→東寺百合文書を中心とする関係史料の一覧表、および切絵図・土地台帳などのデジタルデータを紙媒体で公表する。6月17日シンポジウムの成果を背景として新見荘を4つの地域に分け、従来の研究者の考証についてはそれぞれのレイヤーにより示し、一致点、不一致点を明瞭に示す。
|