シリア北東部ハブル川中流域に位置するテル・タバン遺跡において2005年以来行われている国士舘大学の発掘調査により出土した480点以上の楔形文字文書の文献学的・歴史学的研究が本研究の目的である。本研究は、これら文書を同遺跡から今後さらに出土する楔形文字史料とともに系統的に研究し、古代のタバトゥム/タベトゥ市(現テル・タバン遺跡)とその周辺の歴史と文化を明らかにしようとするものである。 2010年8月~10月に行われた今年度の調査においては、2005年に出土し、まだ保存修復の済んでいない中期アッシリア時代と古バビロニア時代の粘土板断片をダマスカス博物館から借り出し、ハッサケのテル・タバン遺跡調査キャンプにおいて、日本とシリアの保存処理技術者が共同でこれらの資料の保存修復を行った。これを受けて、文書研究班が、未整理だった粘土板断片に整理番号を付け、多くの粘土板断片を接合することで粘土板の復元を行い、文書解読にむけた資料の整理・記録・復元の作業が大きく前進した。これと同時に今年度新たに出土した計14点の楔形文字史料(円筒形碑文断片1点、土製釘片1点、焼成レンガ片12点)の詳細を記録し、写真撮影、ハンドコピー作成、ならびに解読作業をおこなった。 また、これまでの文書研究の成果の一部を山田と柴田が国内外の学会・研究会において発表した。これにより、古バビロニア時代から中期アッシリア時代のタバトゥム/タベトゥの地政学的状況ならびに王統に関する新たな知見が学界に示された。また、タバトゥム/タベトゥは、古バビロニア時代にバビロンのハンムラビによって破壊されたユーフラテスの中心都市マリの文化的伝統を暦(特に月名)、祭儀、度量衡、書記伝統等において多様な形で継承していったという新たな研究成果も公にされた。
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