最終年度である2013年度は過去3年間の研究成果のとりまとめと公表の準備に重点を置いた。2013年5月23-25日には研究上のパートナーである中東工科大学と共同でTHE CENTENARY OF THE BALKAN WARSと題する国際会議を開催し、10カ国120名が参加した。日本からも研究代表者と研究協力者2名が参加し、バルカン戦争の全貌とその歴史的意義についての包括的な分析が行われた。更に、9月18-19日にはソフィア大学歴史学部との共催でThe First World War and its Impact on the Balkans and Eurasiaと題する国際会議を開催した。ここでは本研究プロジェクトの海外共同研究者15名が参加し、第一次世界大戦が東部欧州辺境地域に及ぼした影響について多角的な研究成果の報告が行われた。この二つの国際会議は本研究プロジェクトの集大成であるが、その主な知見は、東部欧州辺境地域における第一次世界大戦は、1912年のバルカン戦争の延長として認識されており、構造的にもそうした機能を果たしていた。研究当初に予想していた総力戦体制の構築と社会経済システムの変質は、第一次世界大戦に2年さかのぼって開始されたが、西欧諸国と比較してその完成は遅れ、戦時中も継続して総動員態勢の整備が進められたが不完全なままに推移したことが確認された。動員体制の不完全さは行政・警察・軍事の何れでも確認され、その歪みが原因で戦後に議会制民主主義への速やかな回帰が起こらず、民政への軍の介入が一般化し、1920年代には何れの国々も権威主義体制へと移行することになった。本研究の成果はこれを各国の事例の比較によって確認したことであるが、その過程で、従来考えられていた以上にテロを主要な手段とする秘密政治結社の果たしていた役割が大きいことが判明し、新たな研究課題に浮上した。
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