研究概要 |
2010年度に引き続き,田崎・三吉が中心となり,松山市文京遺跡において,縄文時代後期~晩期に堆積が進む黄褐色土層群の中でイネのプラント・オパールが出土する灰色砂礫土層の発掘調査を実施した。調査に当たっては,堆積相分析を考古学の研究法として確立するため,土層解析の客観性を高める遠沈管を利用した簡易の粒径観察法を導入した。その結果,南西に向かって落ち込む旧河道内に縄文時代後期中頃~後半の遺物包含層が形成された後,自然堆積で旧河道が埋積され,その上部に灰色砂礫土層が堆積し,さらに上層を北に向かって黄褐色砂質シルトが旧河道の微凹地を覆っていき微高地となっていく遺跡形成のプロセスを把握できた。調査結果は外山が進める周辺の発掘調査データに基づく旧地形の復原とも合致する。 プラント・オパール分析では,宇田津・外山のクロス・チェック体制で,木の根などによる試料汚染について土層間及び土層内の土壌の比較分析から検討した結果,分析的には安定した灰色砂礫土層に上層からの試料汚染がないことを確認できた。この検討結果を受けて,2010年度に調査区西半部で検出した灰色砂礫土層上面の高まり列の広がりを確認することとした。しかし,調査区東半部には灰色砂礫土層はほとんど分布せず,西半部の高まり列も平面的に不明確で,土層の再観察を行った結果,人為的な遺構ではないと判断した。 一方で,調査区西半部の一部で灰色砂礫土層下底面まで掘り下げたところ,平行してのびる3条の小溝群が出土した。地形傾斜と直交すること,ほぼ等間隔に掘られていることから,農耕空間を構成する何らかの遺構と推定できるが,発掘範囲が限られ,研究協力者を含めた検証作業を経ておらず,その性格の確定までには至らなかった。しかし,考古学・地理学・農学相互の分析結果を総合することで縄文時代後期の稲作農耕空間を具体的に調査・解明する仕組みの構築には一定の見通しを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プラント・オパール分析では灰色砂礫土層に上層の影響が認められないことを確認でき,地理学的検討でも縄文時代後期~晩期の周辺の古地形を復原できている。発掘調査では,灰色砂礫土層の下層に形成された遺物包含層を調査できたことで,遺跡形成の過程を復原できた。ただし,2011年度に出土した灰色砂礫土層下底面付近における小溝群の性格は特定できておらず,現時点では稲作農耕空間の考古学的検討の結論は出せない状況にある。2012年度に追加調査を計画し,2011年度に試料を採取した微細堆積相解析を現在進めており,考古学・地理学・農学に地質学の視点を加えた縄文時代後期の稲作農耕空間を解明する環境はより整備されたと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで2年間の発掘調査で,イネのプラシト・オパールが集中して出土する灰色砂礫土層が調査区西半部に広がることを把握できた。2011年度に性格が特定できなかった灰色砂礫土層下底面付近で出土した小溝群の考古学的な検討を行うため,2012年度には当初計画を変更して,調査区西半部の追加調査を実施する。さらに,2012年度は本研究期間の最終年度であり,3年間の発掘調査の成果に基づいて,当初計画していた考古学・地理学・農学的検討に,地質学の微細堆積相解析による土壌層の利用痕跡の検討を加えた上で,分担研究者・連携研究者・研究協力者並びに日本・韓国の関連研究分野の研究者が参加する研究交流会で最終的な発掘調査成果と分析成果を確認し,考古学・地理学・農学・地質学の研究分野を横断する総合的な縄文時代後期における稲作農耕空間を解明する本研究の総括を行う。さらに,分析試料の汚染対策,遠沈管を用いた粒径簡易観察の定式化にも一定の目処を付ける予定である。
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