2010年10月に実施した研究打ち合わせにおいて、銑押し法を検討する上で重要な製鉄遺跡をピックアップした。そのうえで製鉄炉復元に必要な情報を整理し、国選定保存技術保持者の木原明氏に指導を受けながら製鉄炉の設計を行った。 今年度の実験は古墳時代後期の小型製鉄炉をモデルとしたものであり、炉高1.2m、外径60cm、内径20cmの炉である。遺跡の情報より炉床には粘土を貼り、現代に伝わる炉床である木炭床ではない。実験操業の結果、銑鉄を生成することができた。この実験において、銑鉄ができる際には鉄津の排出量が減少し、その鉄津の色調も炉底に鍋が生成する際のそれとは大きく異なることがわかった。実験後半には、炉内環境ならびに形状が変化したためか、炉外への銑鉄の流出がとまり、鉄津の排出も少なくなり、炉内に塊が生成したようである。この塊が銑鉄を含んでいるのか、また銑鉄、鋼、錬鉄の比率がどの程度なのかといった点については、現在なお検討作業を継続している。いずれにせよ、銑鉄生成を目的とした場合の条件として、炉床を粘土にするという点は重要な点である。ただし、近世の銑押し法に採用される製鉄炉の炉床は木炭であるため、いずれの段階でか年度床から木炭床に移行すると予想される。その際の炉の全長、幅を今後見極めたいと考える。 なお、今期の調査研究中、和銑を利用して茶釜などの伝統的鉄器生産を行う技術者たちとの意見交換ができ、今後、このプロジェクトの生成物(銑)を素材として使用したいという申し出を受けた。現在、粘土製の炉を使用した伝統域製鉄技術の銑鉄を使った鉄器生産は稀少である。このようなことから本研究が伝統的鉄器生産に対して担っている意義が大きいことを再確認した。
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