最終年度である本年度は、これまでの継続として、研究代表者及び連携研究者は、日本、韓国、台湾、香港などにおけるインドネシア系移民について、新たに次の点すなわち、(1) インドネシアの経済成長と移民政策、 (2) 移民経験と自己変容、というテーマに即して調査を実施した。 インドネシアの経済成長と移民政策について注目すべきことは、インドネシア政府が非熟練労働者の送り出しから専門家派遣への転換を表明していることである。しかし、それは非熟練労働者を切り捨てるというよりは、むしろ国民経済の中に海外に滞在する非熟練労働者としての家事労働者を統合する方策である。インドネシア政府は、香港とシンガポールにおいて、家事労働者を主な対象に、通信教育、オープン大学を開設し、海外で働きながら高校や大学の卒業資格取得が可能になるべく便宜をはかっている。また、家事労働者を対象に起業家セミナー教室も開設されている。これらの新事業は、移民労働者の意識を変えるつつある。すなわち、経済目的だけにとどまらず、キャリアアップのための移住労働という新しい動機付けを与えているからである。一方、帰還移民自身に焦点を移すならば、グローバル化した世界での移民経験は、彼女ら・彼らの人生設計に多様な選択肢を与えつつある。海外で取得した資金を新築などの一時的な消費で終わらせることなく、新ビジネスに着手する者、その資金を社会福祉活動に生かそうとする者も現れている。かつての出稼ぎ型移民労働に比べ、現在の移民労働はよりシステム化された制度の中にありながら、新しい諸個人を生み出す機会を提供しているのである。 以上の知見は、伊藤及び連携研究者が現地で実施した聞き取り調査、資料収集の成果からえられた。
|