研究課題/領域番号 |
22330002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松原 健太郎 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (20242068)
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研究分担者 |
川村 力 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (70401015)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 中国法制史 / 会社法 / 企業合同・買収 / 人類学 / 社会構造史 |
研究実績の概要 |
研究期間4年目にあたる2013年度は、当初より計画していた国際会議を開催して成果のまとめに入った外、海外大学・研究所において4件の招待講演を行い、経過及び成果を報告することとなった。 成果の中心となったのは、伝統中国における企業体の形成過程がもった多重性の解明であり、特にその中でも明示的な契約という側面がもった基層の内、テンプレートとなった物権的な契約に関わる諸制度が如何なる条件の中で成立し運用されたかについて、世界でも最も先端的な研究をしていると思われる数名の研究者を東京に招いてWorkshop on Chinese Civil Lawを開催した。参加したのは、David Faure(オクスフォード大学・香港中文大学)、邱澎生(台湾中央研究院・香港中文大学)、Maura Dykstra(UCLA,ハーヴァード大学)、Jerome Bourgon(ENS Lyon)、岸本美緒(お茶の水女子大学)の各氏と松原であり、集中的な議論を行う機会となった。一部の旅費と会場については、フランス政府の援助をも受けている。尚この際に参加を予定しながら先方の都合で来日がかなわなかったアメリカの研究者の招聘費用につき、次年度に繰り越しとなった。 繰越によって次年度に回ったアメリカの研究者との議論は、松原が2014年にハーヴァード大学に招待された際に行うことができ、とりわけ清律の条文との関係について相互の認識が深められた。 また研究の人類学的側面につき、コーネル大学ロースクールののAnnelise Riles教授が関心を示して9月に松原の招待公演を企画し、その際に現地で行った議論から人類学、とりわけ本研究において鍵となる贈与交換関係と契約・団体形成との連関について理論的側面の議論を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
最終年度に開催する見通しとなっていた国際会議が、フランス政府の援助とフランスの研究者(Jerome Bourgon, Luca Gabbiani)の積極的協力によって開催でき、また香港中文大学、コーネル大学、マックスプランク・ヨーロッパ法史研究所に予定外の招待を受けて現地の研究者と集中的な議論を行う機会を得たことが進展を早めたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度においては、第一に今年度までに明らかになった中国における団体形成・企業体形成の歴史的基層に関する認識を更に深化すること、第二にそうして得られた見通しに立脚してヴェトナム社会における団体・企業体形成の歴史的な特徴に接近すること、第三には現代中国社会において伝統中国的な社会編成の諸形態が意識的にせよ無意識的にせよ再利用される中で、企業法制の運用・企業合同の在り方について法史学的な見通しの中で捉えることが目指される。 第一の歴史的認識の深化については、本年度明らかになった伝統中国的な団体形成・企業体形成過程のもった重層性自体の内実の解明が課題となる。具体的には、そうした過程がもつ儀礼的側面、儀礼と一体化した(往々にして仮構的な)過去・系譜の認識についての新たに形成される団体内での調整の側面、そうした中で形成される長期的な贈与交換関係と、契約的と言ってもよい権利義務関係の設定とが、如何なる関係に立つのか、香港新界で新たに今年度収集した資料を分析するとともに今年度とりわけコーネル大学での講演を契機として進められた議論の方向性に従って理論的な深化を試みる。 第二のヴェトナム社会における情況の分析については、阮朝政府下で遺された法制史的といってよい独自の資料郡の分析をとりわけ同時代の中国との対比において分析し、そこに見て取られる偏差から団体形成・企業体形成、そしてその国法との関係についての中国・ヴェトナム間の異同を論ずることが目指される。 第三の現代中国企業法制については、進行中の日中企業・実務家の聞き取り調査から、中国の各種企業において株主相互間に形成される関係、複数の層をもつ政府と各層の政府をめぐって展開する政治の相互の関係、これらが法制の運用にもつ影響につき、歴史的文脈の中で見通しを示すことが目指される。
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