最終年度たる2014年度においては、前年度までに明らかになった中国における企業法の在り方を規定する歴史的基層の掘り下げを更に進めていくつかの場で発表すること、中国についての研究が進行する中で明らかになった歴史学的文脈に即したヴェトナム企業法制の法史学的研究について一定の見通しを示すこと、現代中国企業法文化についての歴史的文脈に即した理解を進めること、にあてられた。 中国の企業法の歴史的基層については、企業法制の前提となる契約関連の諸制度がもつ重層性について、認識が深められた。主として土地契約文書の形で残されている基本的な文書形態が土地取引に限らぬ団体形成・契約のテンプレートとなったことは広く知られているが、父系親族団体が形成される際にも契約の契機が存在し、その内容が一方で祭祀の組織化・系譜認識の共有といった儀礼的な契機を、他方で族産の管理運営及びそこからの利益分配といった財産契約的な契機を、相互に未分節なまま内に含むことが確認された。ここには、伝統中国社会において企業活動を実質的に担った宗族・地縁的団体を支えた総合的な給付関係が見てとられた。こうした契約関連の諸制度、とりわけ物権的財産権との関係につき、昨年度に引き続き海外の研究協力者との議論が進められ、松原がフランス・アメリカに招待されて講演・報告を行っている。 ヴェトナム企業法制の歴史的基層については、民間文書資料・阮朝政府の統治に関わる資料の情況から、阮朝の統治が中国の統治を一つの模範としながらも実質において大きく違ったタイプの関係を政府と民間社会編成との間に成立せしめていたことが見て取られ、こうした関係の中で成立した企業体・団体が、より国家の統治作用に密接に連関する形で財産保有・取引を行ったことが理解された。 また現代の中国企業法制につき、上記の如き給付関係が保ち続ける影響について、一定の見通しが得られた。
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