研究概要 |
平成23年度は,主として,日本における会社法および資本市場法の導入の沿革とその後の発展について,両者の関係に留意しながら歴史的・沿革的な考察を行うとともに,利益相反規制の一般理論についてモデル化を行った。 会社法と資本市場法の交錯という観点から,株主の属性およびその行動様式・投資活動の類型に応じた新たな理論的な枠組みを探求する本研究においては,基礎的作業の一環として,会社法と資本市場法がそれぞれの規制の趣旨・目的,適用範囲,エンフォースメント等の観点から,どのような経緯で交錯が生じ,調整されてきたのかを歴史的に検討することが必要である。日本の近代的な会社法制が,ドイツ法の大きな影響の下に創成され整備されてきたのに対し,資本市場法の分野では英米法の影響が当初から小さくなかった。すなわち,明治26(1893)年の取引所法の制定当初から,会員組織の取引所については英米法が模範とされ,明治38(1905)年には社債の担保管理の分野で信託法理を導入した。第二次世界大戦後は,連合国総司令部(GHQ)の主導の下,会社法とりわけ資本市場法の分野でアメリカ(英米)法の影響が圧倒的となった。そのような状況の下,1990年の改正以降,公開買付法の分野でアメリカ法モデルからEU(ドイツ)法モデルに接近する傾向が顕著である。会社法と資本市場法の交錯の問題を考えるにあたっては,前者が主としてドイツ法,後者が主としてアメリカ(英米)法という異なる法系の影響を受けている点を十分に考慮する必要があることが明らかになった。 利益相反規制については,(1)事前的・予防的に利益相反行為を禁止する予防的禁止モデル,(2)事後的に信認義務違反の有無を判断する責任モデル,および(3)手続モデルの3つにモデル化し,それぞれの利害得失および相互の関係について検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は,ドイツへ調査に行く予定であったが,諸般の事情により,海外調査を行うことができず,その分計画に比べ,遅延が生じている。しかしながら,日本における資本市場法と会社法の交錯と調整についての沿革的な研究を先取りして進めることができたため,全体としては,おおむね順調に進展していると評価している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度に予定されていたドイツへの調査は,平成24年度の9月に実施する方向で,計画を進めている。これにより,研究計画にほぼ従った研究が可能になるものと思われる。株主の属性が事業者か投資(運用)業者か,会社の支配権を会社法上確保するに足る支配株主か,支配株主には該当しないけれども資本市場における評価または会社経営に対し事実上の影響力を行使し得る一定のブロックを保有する株主かの4類型を中心的な構成要素として,会社法,資本市場法・業者規制法上の規制のあり方,および両者の協働関係について,理論化を進めていきたい。会社法と資本市場法の関係を整理し,調整の可能性と限界を明らかにするにあたり,株式保有および株主行動についての実態に対する正確な認識を深めることがとりわけ重要である。その点に留意しながら,研究を進めていく予定である。
|