研究課題/領域番号 |
22330031
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神作 裕之 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (70186162)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 資本市場 / 資本市場法 / 会社法 / 利益相反 / 信認義務 / ドイツ法 / 英米法 / 金融コングロマリット |
研究概要 |
平成25年度は、主として、アメリカの金融・証券監督法において、大株主とりわけ銀行・金融持株会社がどのような規制を受けているか、それに対しどのような監督がなされているかについて、監督実務を含めて調査した。銀行・金融持株会社については特別法が存在しており、その沿革および内容を調べた。これにより、利益相反規制の一般理論について検討する際の大きなヒントが得られたと考える。 これまでの研究において、利益相反規制は、①事前的・予防的に利益相反行為を禁止する予防的禁止モデル、②事後的に信認義務違反の有無を判断する責任モデル、および③手続モデルの3つに類型化できることを明らかにした。アメリカの金融業者・証券業者は、これら3つの規制モデルを複雑かつ精緻に組み合わせ、さらには、会社法・信認法などの民事法と監督法とを有機的に連動させた規制に服しており、日本法に示唆するところが大きい。 すなわち第1に、「低品質の資産の移転」やグループ内の証券業務に関連する取引は、とくにリスクが大きい取引として原則として禁止される。例外的に許容される場合には取締役会決議を要するものとするなど、民事ルールと接合・連携させた手続モデルが採用されている。もっとも、一般民事法における豊かな利益相反に係る規律が、そのようなスタイルを可能にしていると考えられる。第2に、「安全かつ健全な銀行業務」基準と「市場条件」基準を定め、ある種の取引を禁止するとともに、禁止取引に該当しない場合であっても担保徴求義務を課すなど、ルールの具体化と精緻化が進んでいる。第3に、子銀行と銀行持株会社間の取引のうち子銀行に不利な取引は厳格に規制され、子銀行から持株会社への資産の移転は、できる限り、利益配当によるべきであるという考え方が明確に打ち出されている。 エンフォースメントを視野に入れたこのような規制の構造は、本研究に大きな示唆を与える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究が「やや遅れている。」と評価される最大の原因は、平成24年度に研究方法と対象に軌道修正を加え、業法および監督法における主要株主規制を新たに対象に加えた点にある。平成25年度は、追加した研究対象、具体的にはアメリカにおける金融・証券監督法の分野における大株主・持株会社規制を中心に研究を行った。 監督法上の規制と民事法上・資本市場法上の大株主規制を相互に比較検討することにより、一般法としての結合企業規制の特徴がクリアになるとともに、相互の関係についても新たな観点から検討する端緒が開かれた。同時に、利益相反規制については、①予防的禁止モデル、②責任モデル、および③手続モデルの3つに類型化されるというこれまでの研究の基本的な正当性が確認され、それらを効果的に組み合わせ、さらには民事法における利益相反規制と監督法上の規制とを有機的に連携させることが有益であることが示された。 もっとも、業法・監督法を研究対象に加えたことから、必然的に、特定の業種・業態についての個別的・具体的アプローチから出発せざるを得ず、現に平成25年度はアメリカにおける金融・証券監督法のみを取り上げることとした。そこから得られた示唆を、預金者保護など金融業の特殊性を超えて、会社法にどこまで一般化・抽象化できるかについては、慎重に検討する必要がある。その意味では、新たな難しい課題を抱えることになった。 他方、従来の研究計画に従って研究をまとめていくために、平成25年度には、「親子会社とグループ経営」という論稿を公表し、これまでの研究の中間整理を行った。同論文において、本研究のアジェンダを示した上で、項目ごとに従来の議論・判例を整理し、今後の検討課題を明らかにした。この中間的研究は、前述した研究の中途における研究方法と対象の拡大により議論がいたずらに拡散することを制御する方向に作用するものと信じている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる平成26年度は、本研究のまとめに注力する。結合企業を会社法上規制する根拠は、議決権を中心とする株主の支配権に求められた。他方、規制する必要があるのは、議決権を根拠に会社を支配している株主である。このように、株主の属性と会社支配という本研究の打ち出した2つの座標軸は、微妙に交錯する。ファンドのような株主の位置付けなどの課題も多い。「会社支配」の定義を詰めるとともに、支配権をもつことに伴い支配株主にはどのような「利益相反」が生じるかを詰める必要がある。 どのような場合に利益相反が生じるのかは、これまでの研究から、業態や市場の状況、株主の行動パターンや当該行動の態様・目的等によって大きく異なることが判明した。そこで、利益相反についてさらに類型化を進める必要があるが、金融コングロマリットに係る監督法上の規制に関する研究から、大きな示唆が得られるであろう。 利益相反規制は、①予防的禁止モデル、②責任モデル、および③手続モデルの3つに類型化された。会社法上の実体的規制、会社法および資本市場法における開示規制、資本市場に関わる業者の行為規制、および業法・監督法上の大株主規制という5つの観点から、結合企業に関するそれぞれの規制のあり方について、規制目的の異同および規制相互の役割分担・協調関係に留意しつつ、立法論・解釈論上の提言を行う。 具体的には、親子会社や関連会社の定義のあり方、支配株主の信認義務によるプリンシプルベースの規制、具体的・個別的なルールベースの利益相反規制の精緻化、およびプリンシプルベースの規制とルールベースの規制の適切な組み合わせについて解釈論的・立法論的提言を行いたい。また、資本市場法の重大な規制の違反に対し当該株主の議決権を停止させるなど、大株主のインセンティブ構造に即した効果的なサンクションについても検討し、エンフォースメントの向上にも留意する。
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