研究の最終年度である本年度は、結合企業を会社法上規制する根拠が会社法上の株主権とりわけ議決権にあるという認識に基づき、議決権行使に着目した株主属性による類型化に基づく分析を進めるとともに、規制の手法とエンフォースメントのあり方についてこれまでの研究をまとめた。また、コーポレートガバナンス・コードが2015年3月に策定され、新たに非法的手法による規制手法が導入されたことから、ハードローによる規制手法とソフトローによる規制手法との関係や両者の適用範囲等についても留意する必要が生じ、ソフトローに視野を広げた研究を行った。株主権行使のスタンスが、株主の株式保有目的により定型的に異なるため、まず支配目的か投資目的かで大別した。法的に問題とすべき利益衝突の状況が異なると考えられるからである。さらに、支配目的については、純粋持株会社形態のような強い支配と系列のような緩やかな支配、また、投資目的については、中長期的な保有による企業価値の向上により収益をめざす場合と株価の変動により収益の獲得をめざす短期保有の場合とで、それぞれ細分化して検討した。事業支配の目的を有する支配株主が存在し、少数派株主や子会社債権者が存在する場合には、両グループ間の利益相反が中心的な問題になるのに対し、投資目的の場合には、むしろ企業価値の向上に結び付かない、場合によっては企業価値を害する行動がとられる可能性があり、他の株主一般ひいては当該企業自体との間に利害対立の状況が生じ得るからである。前者については、グループのメンバー企業間での取引等による利益移転が主要な問題となり、開示および実体法上の規制(独立当事者間取引基準およびそこからの乖離が認められる条件の定式化)が必要となるのに対し、後者について法による規制こは大きな限界があり、その点から、コードのようなソフトローと資本市場による規制に大きな意義を見出し得る。
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