本年度は、本研究費を活用して、あるいは田村が拠点リーダーをつとめるグローバルCOEプログラムを活用して、同様の発想を志向すると目される研究者として、Bonn大学のLeistner教授、New York大学のDreyfuss教授とBeebe教授、Max Planck知的財産等研究所のvon Lewinski研究員、Leeds大学のDutfield教授等を北大に招聘した際に、連携研究者鈴木と連携研究者中山を本研究費を活用して北大に集結させ、活発な討論によるインタラクティヴな共同研究を推進した。 そのうえで、鈴木は、政策形成プロセスに着目する視点から、(1)特許制度における行政と司法の役割分担の具体例としての、特許の有効性を巡る攻防のあり方、(2)著作権制度における国際的及び国内的政策形成の具体例としての権利例外のあり方、(3)知財制度と外在的価値との調整に関する国際的なルールメイキングの具体例としての、生物多様性条約における知的財産制度の扱いのような具体的問題について取り組み、学会報告及び論文を通じて研究成果を公表した。中山は、多様化するイノベーションの一つのモデルとしてオープン・イノベーションを取り上げ、市場と法の役割分担も踏まえ、それが提起する政策的課題を抽出し、立法、司法、行政の役割分担を意識しつつ課題解決の方向性を検討し、さしあたりの考察を論文として発表した。また、抽象的な技術的思想を如何に認定し保護するかという基本的な問題の一環として、均等論や発明の開示要件といった具体的論点について検討を行い、関連裁判例の評釈を発表したが、さらに、関連する他の具体的論点や行政と司法の役割分担に対象を広げて研究を深化させることを検討している。 これらの共同研究を踏まえて、研究代表者田村は、産業分野毎に異なるイノベーション構造に対応するために試行錯誤を繰り返しながら何とか漸進的に暫定的な解を見つけようと模索するmuddling throughとしての知的財産法政策学という暫定的な構想を提唱し、その具体化に向けて一歩を踏み出し、その一部を成果として公表した。
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