研究課題/領域番号 |
22330092
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研究機関 | 独立行政法人経済産業研究所 |
研究代表者 |
冨田 秀昭 独立行政法人経済産業研究所, 研究グループ, 研究コーディネーター (40570297)
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研究分担者 |
権 赫旭 日本大学, 経済学部, 准教授 (80361856)
乾 友彦 日本大学, 経済学部, 教授 (10328669)
尾崎 雅彦 大阪大学, 経済学研究科, 講師 (50470068)
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キーワード | サービス産業 / 雇用成長 / 電子商取引 / 市場ダイナミックス |
研究概要 |
日本経済における雇用創出の源泉を探った深尾・権の研究では、雇用増加分の大部分はサービス産業における増加で、雇用喪失のほとんどは生産の海外移転やリストラが続いた製造業や公共事業が減った建設業で起きたことが分かった。また、若い企業が参入や成長を通じて雇用を創出し、古い企業が雇用減少の主因である結果を得た。電子商取引の実施のような新たな技術の導入が雇用を増加させるかどうかを実証的に分析した権の研究では、以下の三つを発見した。第一、商業とサービス業のような非製造業において、新しく電子商取引を導入している企業が大部分の雇用を創出している。第二、大企業、外資系企業や多国籍企業ほど、電子商取引の技術の導入確率が高かった。第三、企業規模、企業年齢、所有構造などの企業属性と産業ダミーで産業属性をコントロールして行った回帰分析から、電子商取引を行う企業の雇用成長率が電子商取引を行っていない企業に比べて有意に高かった。このような研究結果は研究開発投資、特許などのイノベーションがない非製造業においてICT技術の導入が非常に重要であることを示唆する。韓国と中国の研究者と共同で、生産性上昇の源泉がどこにあるのかについて国際比較分析を行った。中国企業と日本企業のデータを利用して、輸出市場への企業の参入が生産性に与える効果を分析して、輸出開始によって一時的に生産性を向上させる傾向はみられたものの、輸出を継続することによって継続的に生産性を向上させるような学習効果は認められない。また、韓国との比較研究では、韓国の経済成長の源泉は日本に比べて、市場ダイナミックス-企業の参入・退出-の活発さにあることを確認できた。このような結果を踏まえてみると、日本経済が持続的に成長するために、ICTのような新たな技術導入と市場ダイナミックスを強化することによるサービス産業の生産性の向上と雇用創出が必要不可欠であると言えよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経済産業研究所のサービス産業生産性研究会のミクロ研究チームと有機的な連携しながら、定期的な研究会を開催することにより研究協力者、国内外の連帯研究者との間に密接な関係を持って研究を進めた。文部科学省の科学技術政策研究所と内閣府の経済社会研究所を連携して、国際ワークショップと国内ワークショップを実施して、研究結果を発信するだけではなく、国内外の研究者と今後の研究について貴重な意見交換も行った。経済産業研究所を通じて、政府の個票データを確保し、分析を進めている。しかし、データ整理に時間がかかり、分析した一部の研究結果の発表が予定より遅れていることは、残された問題として指摘できよう。
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今後の研究の推進方策 |
確保できた企業内教育や能力開発に関する政府の個票データを利用して、企業内教育によって蓄積された人的資本が企業の生産性に与えた効果を明らかにする。『情報処理実態調査』の個票データとマッチングして、ICTが企業内人的資本の形成に与える効果、企業内人的資本とICTが補完的かどうかについて分析する。さらに、経済産業研究所の無形資産研究会が調査した企業の組織改革に関連するインタビュー調査のデータとICT、企業内教育データをマッチングして、ICTと企業内の人的資本が企業の組織改革に与える効果と企業の組織改革がICTと企業内人的資本形成に与える効果について、つまり組織改革、ICTと企業内人的資本の間の相互依存関係を明らかにする。このような分析を行うために大変なデータ作業が必要であるために、十分な人手を確保することが重要である。そのために、大学院生(昨年度に雇用したRAは大学に就職した)を研究目的ではなく、研究者養成という教育目的を兼ねてRAとして引き続き採用する。さらに、日本の研究機関だけではなく、海外の研究機関との共同研究も積極的に行っていく予定である。
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