研究課題/領域番号 |
22330120
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
山口 隆英 兵庫県立大学, 経営研究科, 教授 (90272096)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 多国籍企業 / 新興国 / グローバルビジネスモデル / 海外子会社 / グローバル企業 |
研究概要 |
新興国市場での日本企業の活動環境および活動の実態を知るために、新興国での経営経験を持つ実務経験者を招いて、国際経済労働研究所の協力の下で、研究会を7回開催した。具体的には、4月にインドでの日産自動車、5月中国でのパナソニック、6月バングラデシュでの鴻池運輸、9月インドネシアでの丸紅、11月ブラジルでのトヨタ自動車、12月インドネシアの三ツ星ベルト、3月ベトナムでの姫建機材株式会社である。ここでのデータをもとにケーススタディを進めている。この研究会を通じて、依然として現地環境の情報が不足している地域があることが明らかになった。ミャンマー、カンボジア、ラオスといった地域については日本企業の進出も少なく、経営学の理論というよりも現地の経営環境の情報提供そのものが必要とされていた。 インドネシアについては追加の海外調査を行い、丸紅が運営するMM2100の訪問を行った。インドネシアについては継続調査する予定であるが、市場規模と工場立地の両面を兼ね備えている国であり、そこでの経営については注目していく必要がある。 以上のようなケーススタディの実施と現地調査から、いくつかの理論的なインプリケーションを引き出すことができた。第一に、グローバルビジネスモデルの構築において、新興国が生産立地としての位置づけだけにとどまらない点である。生産立地としてだけの位置づけでは、急速に上昇する労働コストに対応できないということである。フレキシブルに現地環境に適応していくためには、初期のビジネスモデルを進化させていく能力が求められているといえる。そして、第二に、基本的には、グローバル企業内にあっても地域専門家の養成が不可欠であるという点である。新興国の変化する環境では、情報の現場での分散処理が求められる。地域に精通し、現場に権限委譲できる組織でなければならない。新たな組織構造の研究が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新興国で事業活動を展開している企業を中心にケーススタディの形で研究を進めている。研究会を通じて、実務家の経験を語ってもらい、それを文章化する形式をとっている。本研究のテーマに合うように、ケースの収集を進めているが、実務家の関心事とのズレから、すべてのケースがそのまま研究に直接的にフィードバックできるものではない。この点については、追加の資料収集等を行うことで分析を進めていきたいと考えているが、おおむね順調にケースの収集が行えているといえる。 5年間の計画の中でケースの収集を進めているが、初期のケースについては、新興国の経済発展の速度が速く、すでに現状を表さないものになってきているので、最終的に再調査し、情報をアップデートする必要があると考えている。そのために、継続的現地調査・資料収集等を行うわなければならない。 ケースから導かれる理論面での検討は順調に進んでいる。2012年に発表した「多国籍企業理論の再検討」(林ほか編『多国籍企業とグローバルビジネス』)で、多国籍企業の内部化理論の別の側面を示すことができた。この理論展開の中から、多国籍企業の所有政策についての検討を終え、グローバルなビジネスモデルについての検討結果についての論文を現在執筆中である。この研究を昨年度中に終わらせる予定であったが、まだ終了しておらず、急ぎ検討し、執筆作業を進めたいと考えている。 ケースの収集と執筆に合わせて、理論の再検討を作業と若干の滞っている部分もあるが、おおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性として、さらなるケース収集を行うとともに、理論面での検討を進めていきたい。そして、これの2つの要素を統合することで、グローバル企業研究に対する理論的貢献を果たしていく。 第一に、ケースの収集に関しては、継続して研究会を実施することで、新しいケースの収集を進めたい。同時に、これまでの収集したケースについて、現地調査を踏まえてデータをアップデートするとともに、資料に基づく文献研究も進めて学会発表に耐えうる水準までその品質を高めていきたい。 第二の理論の検討通じて、内部化理論のこれまで扱われてこなかった側面に焦点を当てていきたい。内部化理論は、主に市場取引が組織内での取引変わることを示すことで、市場から企業が誕生する側面を扱ってきた。しかし、もう一つの側面として、企業が解体して市場に変える側面がある。現代のグローバル企業は、これまでの固定化された多国籍企業とは違って、よりフレキシブルに、グローバルにビジネスモデルを構築し、グローバルビジネスに携わっている。つまり、組織から市場により近いネットワーク型のビジネスになってきている。この部分の研究を進めて、論文の形で発表していきたい。 そして、ケーススタディと理論研究の双方を統合する形として、理論研究の裏付けをケーススタディを通じて行って行きたい。どちらも単独に存在するのではなく、ケーススタディで得た知見を理論研究に反映させていきたい。
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