特許引用数は、技術依存関係や知識フロー、技術の経済価値などの計量手段として広範囲に利用されているが、技術者の認知空間の限界、有力特許への引用集中等に起因する引用の偏りを明示的に考慮した分析は、経営・経済学分野の計量研究では未だほとんどみられない。本研究は、このような引用回数の単純カウントがもたらす分析の歪みを把握し、その基礎を解明することを目的としている。計画初年度である本年度では、欧州特許及び米国特許によるパイロット的分析を行った。PATSTATデータベースを用いた分析から、欧州特許において審査官が付与する先後特許の関連性指標と、引用クラスタ係数(特許引用関係にある2つの特許が、可能な組み合わせの中で推移的トリプルを実際に形成している割合)の多寡との間には強い統計的関連があることがわかり、欧州特許庁の学会で発表した。また、米国特許データを用いた分析も開始し、米国特許における審査官引用と発明者引用の間でもクラスタ係数に大きな差があることもわかった。これら現象の理論的基礎については引き続き検討が必要だが、引用数と特許の経済価値の関係を精緻化する新しい手がかりが得られた。なお、これら理論的基礎や企業境界との関係の検討には、社会学等の他分野の学問成果を活用した学際的検討が有用なため、企業の学際的研究により2009年ノーベル経済学賞を受賞したオリバー・E・ウイリアムソン教授を招いてシンポジウム・研究会を10月共同開催し、ここからも有益な研究視点を得ることができた。
|