研究課題/領域番号 |
22330122
|
研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
和田 哲夫 学習院大学, 経済学部, 教授 (10327314)
|
キーワード | 研究開発戦略 / 特許 / 引用 / ネットワーク |
研究概要 |
特許引用数は、技術依存関係や知識フロー、技術の経済価値などの計量手段として利用されているが、認知空間の限界、有力特許への引用集中等に起因する引用の偏りを明示的に考慮した分析は、経営・経済学分野の計量研究では未だほとんどみられない。本研究は、このような引用回数の単純カウントがもたらす分析の歪みを把握し、修正分析手法を考察・開発することを目的としている。 計画2カ年目である本年度は、(1)ネットワーク科学における新手法を特許引用データに対して適用しつつ、(2)特許権維持期間に関するサバイバル分析の利用を開始し、さらに並行して(3)大規模特許データベースの継続開発を行った。(1)に関しては、近年に著しく発達を見せているERGMs (Exponential Random Graph Models)を日本特許引用データに適用し、審査官特許引用と発明者特許引用それぞれをネットワークとしてみたとき推移性指標に大きな違いがあること、推移的トリプル数が個々の引用生成確率に正の影響を与えているように読み取れること、などを明らかにした。この結果は学内紀要にて発表した。 (2)は、前年度の研究から判明していた引用クラスタ係数(推移的トリプルを実際に形成している割合)と、審査官が付与する特許の内容関連指標とに強い統計的関連があることについて、分析を深めたものである。この中間結果は、米国で行われたInternational Network for Social Network Analysisの年次大会で報告し、次年度に継続検討することとした。(3)については、日本の特許データについて出願者・権利者別に集計するための作業を中心とし、特許XMLデータからリレーショナル型データに変換するプログラムの開発及び実行を委託、年度内に完了した。企業名などの名寄せ作業は翌年度に継続実施し、計画通り終了した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成果の(1)に記述したERGMs (Exponential Random Graph Models)は、統計的な手法によってランダムネットワークと対比し、クラスタ性を持つネットワークを分析することができる新しい枠組みである。日本では社会学等の隣接科学にもまだ応用例が多くなく、海外においても特許引用を用いた例は見つけることができなかった。計算量が多いことから、処理可能なデータ量に厳しい制約がある、等の問題点の発見も含め、新規性のある進捗を行うことができたと考えられる。 成果の(2)は、社会学等の隣接科学では取り扱うことがほとんどない「特許経済価値」など、計測可能な指標を取り込んだ経済・経営学の視点をネットワーク科学領域に持ち込むことができた点で新規性を持つと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
成果の(1)に記述したERGMsは、動的なネットワーク成長の分析アルゴリズムの開発が未だ途上であり、この方面での進歩を目指すとすれば、まず物理学・生物学・社会学等をまたがる基礎理論上の理解と貢献が必要となろう。本プロジェクトの推進にとっては負担が大きく、また特許引用ネットワークに特有な問題や分析手法に直接つながるかどうか、見通しがたい。したがって、むしろネットワーク科学そのものでは軽視されがちな特許引用特有の問題に絞った実証研究を行うことが成果につながり、また長期的な貢献の方策となると思われる。具体的には、引用クラスタ係数と、特許の私的経済価値を分析する上記(2)の分析を精緻化するとともに、「特許の藪」と呼ばれる政策課題への意味合いを検討することが考えられる。
|