公的部門の財務管理に企業会計に準じた発生主義会計を導入する動きが我が国を含めて国際的に進展している。これは、公的部門に企業経営の手法と市場原理を活用することにより、より効率的で質の高い公共サービスが実現するという新公共管理(NPM)の考え方に基づいている。しかしながら、NPMの先進国を含め、その適用によりこうした所期の効果が実現しているかは明らかでなく、むしろ民主制や有効性に逆効果になるという批判も見られるところである。 そこで、本研究では発生主義会計の導入状況や活用状況が異なる自治体の実態を分析することを通じて、いかなる条件がそろった時に本来の効果が生じるのか、負の効果はどのようなメカニズムで生まれるのか、について国際比較を交えて分析することにしている。初年度の平成22年度では既往文献のレビューを終え、全国の自治体の財政当局及び議長にアンケート調査を実施し、その活用方策と効果の認識や課題等に関して回答を得た。回答結果の一次的分析においては、発生主義情報の活用は会計の技術的合理的役割、社会政治的役割及び制度的役割に区分すると、現状では現金主義に比較すると役割は低いが、その中でも制度的役割が比較的高いこと、一方、効率性に関連する合理的な意思決定改善に寄与する技術的合理的役割は低いこと、また、予算過程で重要になる社会政治的役割も低いことが明らかになった。要約すると、透明性向上への象徴的概観を示す意味合いで適用されているといえる。
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