本研究は,ハンセン病に対する日本政府の過てる《強制隔離政策》の犠牲者たちが,高齢化とあいつぐ死亡による減少のなかにいる現状を踏まえ,いまを逃すと二度とチャンスはないという焦燥感にかられつつ,当事者とその家族,あるいはこの問題にかかわってきた支援者・専門家などからの《証言》を,ライフストーリーの聞き取りによって,できるかぎり数多く記録することをめざしたものである。 2012年度は,研究協力者の黒坂愛衣やゼミの学生たちと,星塚敬愛園を3回訪問し,入所者3名,退所者1名,家族1名から聞き取り,入所者2名から補充聞き取りをし,6名の方に原稿確認の作業に付き合ってもらった。邑久光明園を3回訪問し,入所者7名から聞き取り,3名から補充聞き取り,1名の原稿確認をおこなった。菊池恵楓園を2回訪問し,入所者3名,家族1名,元寮母2名から聞き取りをし,4名の原稿確認をおこなった。栗生楽泉園には,「80周年記念式典」に招待されたほか,いま1度訪問し,入所者1名の聞き取りをおこなった。奄美和光園も1回訪問し,入所者1名の聞き取り,家族3名の原稿確認をおこなった。多磨全生園では,全療協の事務局長からの聞き取りをおこなった。このほか,第8回ハンセン病市民学会(青森),「らい予防法による被害者の名誉回復及び追悼の日」式典(厚労省前),遺族・家族の会「れんげ草の会」総会(鹿児島),に参加し,情報収集をおこなった。 さらに,8月には,韓国の国立ソロクト病院や全羅北道・益山の定着村「イクサン農園」と「クモ農場」のフィールドワークを実施。ハンセン病問題の日韓比較研究にも展望を見出した。 研究成果としては,大学院の紀要『日本アジア研究』に聞き取りの記録4編を公表した。また,現在,研究協力者の黒坂愛衣がハンセン病患者の家族の体験に焦点をあてた『ハンセン病家族の人生物語』(仮題)を執筆中である。
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