日本在住の典型的少数民族集団(エスニックマイノリティ)の難民・難民認定申請者につき調査研究を行なう。難民にはインドシナ難民(社会主義体制に移行したベトナム、カンボジア、ラオスにおいて、新しい体制の下で迫害を受けるおそれのある人々や新体制になじめず脱出した人々)、条約難民(難民条約に基づき難民と認定された人々)、難民認定申請者(庇護を求めて国籍外の国で難民認定申請を行なった人々)などが存在する。彼らの日本社会への適応と定住状況について、身体的、心理的、社会的側面から参与観察とインフォーマルなインタビューによる実態調査を行なう。マイノリティの生活実態を把握することは、マジョリティである日本国民の生活、保健、福祉のありかたを反映するものである。また難民らの支援に携わる精神保健福祉専門家の背景についても調査を行う。調査結果は行政のみならず広く社会へ知らしめること、難民認定法の改正、難民の生活支援(社会保障制度の整備など)の確立を目指した。 その結果、日本の難民認定申請過程や生活支援体制など我が国の抱える問題は多々あるものの、難民支援においては次の3点が重要であることが見えてきた。 1)難民の経験に基づいた語りによく耳を傾け、彼らの価値観、慣習への理解を深めるといった歩み寄りが、ホスト国文化への統合という形での文化変容を起こす可能性がある。2)難民化の経過について語ることへの辛さを理解し、「語られなかったこと」にも心を留める必要がある。3)難民らを「困難を抱えた人々」と捉えず、困難を乗り越える主体としてとらえ、彼らの「強さ」に力を添える形での支援が望ましい。4)難民への福祉的支援においては、コミュニティリーダーと専門家が連携協同し、支援を展開していくことが望ましいことが分かった。
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