研究課題/領域番号 |
22330183
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
高木 光太郎 青山学院大学, 社会情報学部, 教授 (30272488)
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研究分担者 |
森 直久 札幌学院大学, 人文学部, 教授 (30305883)
大橋 靖史 淑徳大学, 総合福祉学部, 教授 (70233244)
原 聰 駿河台大学, 心理学部, 教授 (00156481)
後安 美紀 株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 知能ロボティックス研究所, 客員研究員 (70337616)
松島 恵介 龍谷大学, 社会学部, 教授 (50310123)
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キーワード | 足利事件 / 虚偽自白 / 法心理学 |
研究概要 |
平成23年度は1.足利事件における検察官取調べ録音テープに記録された会話データの解析と、および2.足利事件の虚偽自白生成と発見失敗現象に対してDNA鑑定、精神鑑定などの科学鑑定が与えた影響についての詳細な検討を行った。 1については、取調べにおける検察官と被疑者の会話を被疑者固有の体験語り(非体験語り)の様式(スキーマ)と、取調官が検察という捜査機関の社会文化的文脈に埋め込まれたかたちで設定する会話フレームとの部分的な一致と齟齬が繰り返されることによって、取調官による強圧的な自白の押しつけが存在しない状況化で被疑者が虚偽自白に追い込まれた可能性が高いことが明らかになった。これは取調官が被疑者を犯人と強く決めつけ、その圧力に屈して被疑者が犯人を演じることを主体的に選択するという「悲しい嘘」型の虚偽自白と異なる「ディスコミュニケーション」型の虚偽自白が足利事件において生じていた可能性を示唆するものであり、足利事件における虚偽自白生成過程と発見失敗現象の理解に重要な示唆を与えるものであった。 2については公判廷における科学鑑定の意味づけの変遷を詳細に追跡する手法を用いて、法律家の意思決定に科学鑑定が与えた影響を検討した。その結果、当初あまり重要なもの(決定的証拠)として認識されていなかったDNA鑑定が裁判の進行に従って徐々に重みを増していくといった現象が確認された。また、このような証拠の重みづけの変化には、法律家や鑑定人を含む関係者がみな最新の鑑定手法であるDNA鑑定の意味を十分に理解しないままに、その意味について議論するという不安定なコミュニケーションの構造が存在していた可能性が示唆された。これも足利事件における虚偽自白生成過程と発見失敗現象の理解に重要な示唆を与える発見であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
足利事件における取調べコミュニケーションの基本的な問題点をデータに基づき見いだすことに成功していること、DNA鑑定等の科学鑑定が法律家の判断に与えたマイナスの効果とその発生機序について基本的な理解を得ることができたことから、平成23年度に設定した研究目標を概ね達成できたものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は本研究の最終年度であり、これまでに得られた分析結果を統合して足利事件における虚偽自白の生成と発見失敗の全体的な構図を明らかにすることが求められる。そのために警察官による取調べにおいても「ディスコミュニケーション」型虚偽自白が発生していたことを確認することと、DNA鑑定だけではなく精神鑑定においても法律家による鑑定内容の不十分な理解に基づくコミュニケーションが生じていた可能性を検証する作業が必要となる。 これらの補充的な分析結果を得たのち、両者を統合して最終的な結論を導き出したうえで、法律家等からの意見聴取を行い、それらをふまえて最終報告書を作成する。
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