研究課題
本年度は主に最終報告書の作成に向けた成果のとりまとめを行った。本研究では足利事件における虚偽自白の発生および発見失敗の主要な原因として、被疑者取調べのあり方、およびDNA鑑定等の科学鑑定の理解・評価のあり方に注目し、相互行為論的な水準でその問題点を解明することを試みた。その結果、以下のことが明らかになった。被疑者取調べにおいては、取調官が依拠するコミュニケーションの枠組み(法律人フレーム)と被疑者の個別的な供述特性(スキーマ)にミスマッチが生じているにもかかわらず、そのズレが表面化せずに取調べが進行することによって、あたかも真犯人の自白であるかのような被疑者供述(虚偽自白)が得られてしまうというプロセスが確認された。これは従来指摘されていた、取調べのつらさを回避するため被疑者が、取調官の意図を読み取りつつ積極的に真犯人を「演じる」ようになるとする「悲しい嘘」型の虚偽自白とは異なる類型である。このタイプの虚偽自白は表面上穏やかなコミュニケーションとして展開するため、「悲しい嘘」型の虚偽自白に比べて発見が困難となる可能性が高い。科学鑑定の理解・評価については、法律家が依拠するコミュニケーションのフレームと、鑑定人となった科学者のそれに齟齬が生じているために、鑑定の特質について十分な情報が得られていないにもかかわらず、それを放置しコミュニケーションを終了してしまうというパターンが繰り返し観察された。これによって科学鑑定の結果や方法が「ブラックボックス化」してしまい、重要な理解が阻害された可能性が高いと考えられた。これらの結果をふまえ、虚偽自白の発生および発見失敗のプロセスをコミュニケーションの齟齬の反復的なパターンとして記述する新たな虚偽自白モデルが提案された。以上の分析結果、モデルおよびそれに基づく実務家への提言を2014年度中に書籍として出版すべく準備を進める。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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Proceedings in Information and Communications Technology
巻: 6 ページ: 130-147
自由と正義
巻: 63(12) ページ: 35-39
法と心理
巻: 12 ページ: 45-49
龍谷大学国際社会文化研究所紀要
巻: 14 ページ: 205-227