研究課題/領域番号 |
22330188
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
酒井 厚 山梨大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (70345693)
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研究分担者 |
前川 浩子 金沢学院大学, 文学部, 准教授 (10434474)
高橋 英児 山梨大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (40324173)
眞榮城 和美 清泉女学院大学, 人間学部, 准教授 (70365823)
尾崎 幸謙 統計数理研究所, データ科学研究系, 助教 (50574612)
松本 聡子 山梨大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (30401590)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 社会性 / 仲間関係 / 縦断研究 / 養育環境 / 信頼関係 |
研究概要 |
本研究の目的は、旧来型の地域共同体システムの崩壊や子どもの多様化に伴う家庭と学校における子どもの社会性育成機能の低下という今日的課題を受け、子どもの社会性の発達を促進もしくは阻害する要因とその長期的な影響プロセスを、子どもを取り巻く家庭-園・学校-地域の相互関係的環境と子どもの個人的特性(気質・問題行動の萌芽的形態)の相互作用から検討し、家庭や学校による育成機能の低下により子どもの社会性が損なわれる場合のセーフティネットとなる要因を解明することである。 24年度は、約300家庭への質問紙による継続調査とインテンシブ・グループへの家庭観察を実施し、主に家庭による子どもの社会性育成機能が低下する状況の把握と、地域・園・家庭を包括的に含めたサポートネットワークがその機能を支える要因となり得るかどうかについて検討を行った。家庭による子どもの社会性育成に関しては、従来と同様に、親の育児ストレスが強く温かみがなく統制の厳しい養育になる場合に、幼児の向社会的行動が低下し仲間関係での問題が助長されることが示された。こうした母親のストレスに対しては、親族や友人などの親しい他者ばかりでなく地域の子育てサークルや医師等の専門家などによる包括的な相談ネットワークの存在が防御要因となり、子どもの問題行動を抑制する可能性が示された。また、本研究では親の養育態度(暖かさ、体罰など)や子どもの問題行動の萌芽的形態(多動性、情緒的問題など)との関連を統制した場合にも、母親の認知による保育施設との信頼関係の高さが子どもの自己主張性の高さと有意に関連するという特徴的な結果が得られた。以上から、家庭における子どもの社会性育成に関しては、地域・園・家庭の包括的なサポートネットワークがその下支えとなり、なかでも園との信頼に基づく良好な関係性が育成機能を補填するセーフティネット要因の中核となり得ることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、子どもを取り巻く家庭-園・学校-地域の相互関係的環境と子どもの個人的特性(気質・問題行動の萌芽的形態)の相互作用の観点から、社会性育成機能を支えるセーフティネット要因を解明することである。 これまで、約300家庭を対象にした継続的な質問紙調査と、インテンシブ・グループ約70家庭を対象に観察調査を実施し、幼児期初期の子どもの社会性育成には、親による温かく権威的な養育の他に、家庭内のきょうだい関係を良好に保ち、子どもの外での仲間関係づくりを支援する行動(ピア・マネージメント)が重要であることを示した。ピア・マネージメント行動がまだ十分に概念化されていないわが国において、その特徴を整理し有効性を示した点は本研究の成果の1つと言える。また、こうした家庭における養育の質が良好で子どもの社会性が育成されるには、近親者から地域までを含めた包括的なサポートネットワークが下支えとなり、なかでも園との信頼に基づく良好な関係性がセーフティネット要因の中核となり得る可能性を示した。さらに、母親が相談ネットワークを地域にまで広げることや園との信頼関係を築くことには、母親の外向性の高さが関わるという結果も得られた。これらの結果から、子どもの社会性育成機能を補填する具体的な取り組みを検討する際には、これまであまり注目されてこなかった母親のパーソナリティの個人差についても考慮する必要があること、親とのかかわりの多い園が、母親の状態に合わせて子どもの社会性の発達を促す環境を用意するコーディネーター役割を担う可能性が高いことが示唆された。 こうした結果の一部に関しては、当該分野の研究者や教育者の実践に役立つ情報として、4件の雑誌論文と12件の学会発表を通じて発信することができている。来年度以降は、蓄積されてきた縦断データを解析し、国内外の学会において論文を投稿し発表を重ねていく。
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今後の研究の推進方策 |
対象児がすべて就園する来年度以降は、子どもの社会性育成に対する家庭‐園‐地域それぞれ個別の機能とお互いの協働関係に焦点を当て、子どもの向社会性と問題行動それぞれの発達への影響について検討する。具体的な方法として、対象者全体には質問紙調査を実施し、インテンシブ・グループには実験観察、インタビュー、フィールドワーク調査を実施する。 対象者全体への質問紙調査では、研究課題の残り2年間を通じて、これまでの調査と同様に親の養育環境や子どもの社会性に関わる情報を収集するとともに、自ら作成した地域のピア・マネージメントシステム(子どもの仲間関係の形成促進や調整を促す人的・組織的環境)を評価する尺度を使用して、子どもの社会性の発達への影響について検討する。地域のピア・マネージメントシステム尺度とは、子どもの仲間関係づくりを目指した親や地域の大人による意識や行動、地域における取り組みやサービスの違いを総合的に評価するものであり、対象児の母親と承諾が得られた対象児が通う園の保育士・教諭から情報を収集する予定である。インテンシブ・グループには、5歳になった対象児への実験観察と親への半構造化インタビューを実施する。実験観察では、子どもの仲間関係の質、他者への信頼、自己有能感・社会的受容感について行動レベルで評価する。半構造化インタビューでは、家庭における子どもの仲間関係づくりへの具体的な取り組みや、子どもをめぐる園や地域との関係性について詳細に尋ね、子どもの社会性育成機能を支える家庭-園・学校-地域によるセーフティネット環境の構築可能性について探る。 研究実施に関しては、これまで質問紙調査の回収率が7割以上であるものの、参加辞退者数を見越して常に協力者を募集しておく必要がある。来年度以降も公的機関や関連団体を通じて募集活動を実施し、とくに双生児のいる家庭の参加者数を増やすように努める。
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