| 研究概要 |
本年度は、fMRIによる脳活動計測を中心に進め，心理物理実験との比較から，異なる速度の運動処理に対する脳の責任部位の違いを明らかにした。実験では，回転運動を20秒程度観察したあと（順応刺激）に，同方向あるいは逆方向の運動刺激（テスト刺激）を呈示して，被験者にその運動方向判断課題を課した。運動刺激による順応効果（運動残効）からの予測に一致して，同方向刺激に対して感度低下にともなる応答時間の増大が確認できた。この運動方向への順応効果は，順応刺激とテスト刺激の速度が同一のときに，異なる場合に比べて顕著であり，速度に対する選択的であることも明らかとなった。この結果から，異なる速度の運動を処理する複数の運動処理メカニズムの存在が明確になった。
同時に計測したfMRI信号に基づき、V1, V2, V3AB, V4, MTの各脳部位での運動残効について検討した。各部位において，運動残効に対応する応答の低下は観察され，運動に対する順応効果がfMRIで計測できることを確認した。しかし，速い運動刺激，遅い運動刺激のいずれでも順応効果が見られた応答時間とは異なり，遅い運動刺激においてのみ顕著な効果がみられる傾向があった。ただし，MTとV3ABは，相対的に速い運動刺激の順応効果がみられ，他の部位よりも高速の運動に感度を持つ可能性が示された。この点も含めて，全体的に物体認識かかわる腹側経路においては遅い運動への感度が高く（選択的順応効果がみられ），空間認識にかかわり運動情報処理も担うといわれる背側経路では，速い運動への感度が高いとまとめることができる。物体認識経路における運動処理が遅い動きに感度を持つことを示唆し，運動情報からの形状知覚や奥行知覚の処理との関連が考えられる。
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