本研究では、中枢と末梢の両神経系に制御された全身体的反応である自律神経系(瞳孔反応)に注目し、視覚の知覚学習による身体反応の変容を実験的に推定することを目的とした。初年度である本年度では、以下の成果を上げた。 (1)視覚実験を遂行すると同時に瞳孔反応を計測する実験システムを構築した。 (2)瞳孔反応は情動と対光反射の両成分によって変調される。情動価の高い画像の輝度を正弦波状に変調しつつ被験者に提示し、その間の瞳孔反応を測定したところ、正弦波変調された輝度成分は、瞳孔における正弦波状の変動をもたらすことがわかった。以上の結果に基づき、情動と対光反射両成分の切り分けを行うアルゴリズムを提案した。 (3)知覚学習課題としての運動視課題の有用性を調べるために、瞳孔反応を変動させる輝度順応が運動知覚にもたらす影響を実験的に推定した。その結果、順応レベルの変動により運動知覚が修飾されることを見いだした。このことから、次年度に行う学習課題の題材として運動視課題を利用することを決定した。 (4)視覚探索に基づく知覚学習を行い、その間の瞳孔径を測定した。その結果、瞳孔径は知覚学習によりシステマティックに変動すること、そしてその学習曲線は行動指標(反応時間)に基づく学習曲線とは形状が異なることを発見した。瞳孔径は学習者が投入するメンタルエフォート(がんばり)を反映していることを鑑みると、この結果からメンタルエフォート量とパフォーマンスは必ずしも同時にピーク値を迎えるわけではないことがわかる。つまり、パフォーマンスよりも瞳孔反応のような身体反応の変容が、学習者の「がんばり」をより直接的に表している可能性があるといえる。次年度はこの可能性をさらに追求し、学習者の頑張り量の定量化を目指す。
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