研究概要 |
逆行マスキングにより繰り返し提示した表情画像に対して、自律神経系における交感神経系と副交感神経系の双方により制御されている瞳孔反応がどのように変動するか(学習の効果)、そして表情に対する観察者の好悪反応はどのように決定されるかを実験的に検討した。画像の提示時間は8ミリ秒および500ミリ秒とした。前者の提示時間では、観察者は提示されている画像の認識ができない閾下提示となる。この状況下で数十回の繰り返しを行いながら瞳孔径の変容を同時計測したところ、以下の2点がわかった。(1)提示時間が長い時は、表情刺激の覚醒度が低いほど縮瞳率が高い。(2)提示時間が短い時は、表情刺激の覚醒度が高いほど縮瞳率が高い(吉本, 2013)。従来研究では、瞳孔径は提示刺激の覚醒度の高低と相関して変容するとされてきたが、この結果は、瞳孔径の変動は提示時間とも関係していることを示している。つまり、自律神経系の変容は提示刺激に対する意識的な評価が大きく関与しているといえる。 この結果を利用すると、閾下提示の手法により好感度を操作できる可能性がある。本研究計画の二年目までに得られた成果として、瞳孔径の縮瞳率が大きい場合には提示されている対象に対する好感度が上昇することがわかった(Yoshimoto et al, 2012)。この知見と先に記した結果を合わせると、覚醒度が高いネガティブな表情刺激を繰り返し提示すると、より高い縮瞳率故に、この表情に対する好感度が高まるという意外な予測が成立する。実験では一対比較方法と閾下提示法を組み合わせ、ニュートラルな表情刺激に対する好感度が、表情刺激(高低覚醒度双方)への閾下提示後にどのように変容するかを調べた。実験の結果、ネガティブな表情刺激を閾下で提示された観察者には、同一人物のニュートラルな表情に対する好印象が形成されることが明らかになった(吉本ら, 2013)。
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