研究課題/領域番号 |
22330228
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺田 寅彦 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (30554456)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 教育学 / 比較教育学 / スペイン / フランス / ドイツ / イタリア / 英語教育 / 挿絵 |
研究概要 |
本研究はヨーロッパの英語教育において教科書の中の挿絵の役割を探り、またその挿絵から理解される教育政治・文化背景を明らかにしていくものである。平成25年度は研究対象国としてとくにスペインを選び調査を進めると同時に、以前の年度に調査を行ったフランス・ドイツ・イタリアについても比較検討のための補足調査を行った。その成果は以下のようにまとめられる。 1.イタリアと同じく、長らくの間各地方での方言使用が著しかったスペインにおいては、スペイン語自体を含めた語学教育法が古典語であるラテン語の教育法に準じる保守的な傾向の教育法で指導がなされていた。そのため、教科書には挿絵を入れない傾向が長らく続き、第二次世界大戦中までの教科書では表紙ですら挿絵がないものが多い。2.保守的な傾向とフランコ政権下の宗教教育の影響のため、第二次世界大戦直後も含めて英語教科書のテキストでは父権中心的でキリスト教の影響を確認できる内容となっていた。3.50年代後半以降は英語教科書において挿絵も多く用いられるようになるが、やはり家父長制重視を反映する挿絵の内容となっていることが確認された。4.50年代前半までのスペインの英語教科書をフランスやドイツの英語教科書と比べると明らかに挿絵の役割が小さなものになっているが、その後はイギリス人教育者の著者の協力を得て、積極的に挿絵を活用する傾向が明らかである。写真を用いた挿絵の利用も、フランスやイギリスに比べると遅く始まるが、50年代以降は積極的な活用が確認され、中には全挿絵が写真である「フォト・ロマン」的な体裁になっているものもあり、英語教育への新しい実践が理解された。次年度の研究においてはロシアを取り扱う予定であるが、スペインをはじめとする研究調査対象国で引き続き補足調査を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究の達成度は「2 おおむね順調に進展している」だが、これはスペインでの調査の成果が満足できるレベルのものであり、さらに前年度までで積み残しとなっていたドイツとフランスでの補足調査も大いに進んだためである。ただ、平成25年度の研究内容をさらに充実させるためには、引き続き今までの研究対象の四か国(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン)における調査が必要であり、平成26年度の研究対象国であるロシアでの調査だけでなく、この四か国での補足調査は引き続き行われる必要がある。とくにスペインではフランコ政権が終息したあとの教科書の変遷を理解する必要があり、慎重な調査が必要である。そのため「おおむね順調に進展している」としたものである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策は、以下の通りである。1.ロシアのモスクワとサンクトペテルブルクの両都市にあるロシア国立図書館(モスクワのものは旧国立レーニン図書館で、サンクトペテルブルクのものは旧サルトゥイコフ=シチェドリン記念公共図書館)に保存されている教科書の調査を行い、可能な限りロシアで用いられている英語教科書の資料収集に努める。2.必ずしも国立図書館に教科書が多く所蔵されていない事態を鑑み、可能な限り現地の教員の協力を求め、使用されている英語教科書の資料収集と検討を行う。そのうえで資料に分析・検討を加える。いずれに場合も、旧ソビエト時代には物資不足から教科書自体が生徒にいきわたらなかった状況を踏まえて調査をする。英語教育についてはペレストロイカ以降の教育方針に大きな変化があったので、その変化も念頭において調査をする。 同時に、前年度までの研究で得られた知見との比較分析も行うことで、より高次な理解を得ることも目標とする。そのためにも、今後も引き続きフランス・ ドイツ・イタリア・スペインにおいて補足調査を行い、ヨーロッパ各国における英語教科書の使用の背景にある教育政策の理解と、教科書における挿絵の役割の理解を深める予定である。
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