本研究はヨーロッパの英語教育において教科書の中の挿絵の役割を探り、またその挿絵から理解される教育政治・文化背景を明らかにしていくものである。平成26年度は研究対象国としてとくにロシアを選び調査を進めると同時に、以前の年度に調査を行ったフランス・イタリア・スペインについても補足調査を行った。その成果は以下のようにまとめられる。 1.ロシアではサンクトペテルブルクにある国立図書館新館とマヤコフスキー市立図書館で、ソビエト連邦時代ならびにロシア時代に出版された英語教科書および関連のある英語教材を調査することができたが、主にテキストの内容がソビエトの政治体制を反映しており、当時の外国語教育と政治的プロパガンダとの関連を確認することができた。ペレストロイカ以降、とりわけ90年代の中等教育における英語教科書では政治的プロパガンダは弱まり、同時にスタイルの西欧化が確認された。 2.イタリアではフィレンツェ国立中央図書館とローマ国立中央図書館に所蔵されている資料の比較調査から、すでに調査が進んでいた第二次世界大戦期の英語教科書が別の版の英語教科書の実質的な改訂版であることが判明したほか、英語教科書でありながら他の言語(とくにドイツ語、スペイン語、フランス語)と全く同じ体裁・文章・挿絵を持つ教科書シリーズが見つかった。英語にとどまらないイタリアにおける外国語教育の実態を示す貴重な資料の確認となった。 3.スペインではマドリードの国立図書館においてフランコ政権下ならびに近年出版された英語教科書について補足調査を行い、英語教科書にみられた宗教色が70年代に薄らぐことが確認された。 以上のように英語教科書は歴史的・社会的な背景を反映した内容を持ちうるものの、挿絵と教科書のつながりの深さには国によって違いが大きいことが理解された。
|